東京五輪の延期が決定されたのは3月24日だが、それ以降新型コロナウイルスの感染者数が急増した。そのため「感染者数が増大すると東京五輪開催の大きな弊害になるので、国や東京都は意図的にPCR検査を少なくしたのではないか」という疑念が広がった。検査をしなければ感染者は判明しない。検査を絞れば絞るほど感染者が増えないのは当たり前である。
新型コロナウイルスのデータについては、同じ人が何回も検査をすることがあるので、検査件数と検査人数がハッキリしていない。しかし、公表されているデータから推測すると、やはり「五輪延期前は検査を絞っていた」と思わせる結果となった。
筆者は、厚労省が公表している「国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施状況」と「新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について」の2種類のデータから、検査数と感染者数の推移を調べた。検査数は、検査人数ではなく検査件数だが、日ごとの経過はおおよそわかる。その結果が下記の表である。1日ごとの数字ではわかりにくいので、1週間ごとの検査件数と感染者数の推移を比較した。なぜ火曜日から月曜日を1週間としたのかは、公表されている検査件数の最初の日が2月18日の火曜日で、延期の発表があった3月24日も火曜日なので、きりが良かったからだ。
検査件数は一目瞭然で、延期が決まった途端に件数が増えている。3月24日以前の3週間は、毎週ほぼ1万件だった。ところが、3月24日~30日までの1週間は、それまでの約1.6倍の1万6,536件、その翌週は3.4倍の3万4,074件、その翌々週からは24日以前の週に比べ、なんと5倍強の5万件以上検査をしている。
これは全国の合計件数だが、東京都の数字を見ると、もっとハッキリわかる。3月23日から、いきなり検査件数が増えているのだ。安倍首相が延期を公表したのが24日だから、当然、その前に東京都にも延期の情報は伝えてあっただろう。
国も東京都も、延期決定までは「検査を絞って感染者を多く見せたくなかった」という思惑が見て取れる。一方、感染者数も3月24日以降、急速に増加している。検査をすればするほど、感染者を見つけることができ、より多くの感染者を隔離することができる。感染者が増えれば医療崩壊が起きるといって、検査数を絞りに絞った結果、今、人口が多い都道府県ほど新規感染者数が思うほど減らず、終息の見通しが立っていない。
国民に負担ばかり押し付ける政府
検査数の推移を見ても明らかなように、増やそうと思えば増やすことができている。医療崩壊が起きると言いながら、軽症者用の宿泊施設を増やそうと思えば増やすことができた。世界中の多くの国々で大規模検査ができたのに、日本だけができないということはない。やろうと思えばできたのに、やろうとしなかっただけのことだ。おそらくその一番の理由は「東京五輪開催」だったのだろう。
せめて1カ月前倒しして、2月下旬頃から「毎週3万件から5万件の検査をしていたら、感染拡大を防ぐことができたのではないか」と残念でならない。政治は結果である。政府も地方自治体も「自宅にいろ。他県には行くな。○○には行くな。貯蓄でしのげ」と、国民に負担ばかりを押し付け、「こういうことはできないか」と国民が言うと「できない、できない」の一点張りだ。
やろうと思えばできるのに、できないことの理由ばかりを見つけて、ひたすら国民に負担を押し付ける。そればかりか、緊急事態宣言を1カ月延ばし、罰則を設けたり、事実上の都市封鎖をするなど、今まで以上の負担を国民に要求しようとする動きまである。そんなに国民をいじめてうれしいのか。国民に負担を押し付けるなら、行政としてやるべきことをやってから言うべきだ。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)