4月7日に緊急事態宣言が発令されて以降、テレビや映画などのエンタメ業界は時が止まったかのように身動きが取れない状態が続いている。新作映画は軒並み公開延期、4月クールの新ドラマは撮影休止を余儀なくされ、バラエティ番組も3密を避けた布陣での収録や、過去の放送をまとめた総集編などで対応するのが当たり前となりつつある。
緊急事態宣言が5月末まで延期されたことで、この未曽有の事態はもうしばらく続きそうだが、そんななか続々とユーチューバーが誕生しているというのもまた、この“コロナ時代”を物語っているのではないか。ある放送作家は次のように語る。
「芸人がたくさん出てくるバラエティ番組を主戦場とするひな壇芸人たちにとって、コロナ禍による収録中止はまさに死活問題。劇場も閉まってますから、本当に仕事がないんです。とはいえ、周りにはスタッフも多いし、事務所のバックアップも受けられるため、そんな芸人たちがユーチューバーになりやすいという側面は確かにありますよね。
4月から始まっただけでも、サバンナ高橋(茂雄)さん、ダイアンさん、FUJIWARA原西(孝幸)さん、TKO木下(隆行)さんなどがいますが、TKO木下さんのチャンネルは、事務所退所騒動などがあったにもかかわらずたいしてチャンネル登録者数は増えておらず、むしろ猛烈な低評価がついています。また、FUJIWARA原西さんのチャンネルは人気ギャグ芸人を招集して一緒にギャグ動画を作るなど頑張ってますが、登録者数は1万人にも満たないレベル。いま、芸人ユーチューバーは完全に飽和状態になっていて、多少の知名度があるだけでは客が集まらないというのが現状なんです」
千原ジュニアと今田耕司、YouTubeチャンネルの“落差”
一方、大物芸人たちも続々とYouTube業界に参入。しかし、「ネームバリューだけでは勝ち残れないのが動画ビジネスだ」と、前出の放送作家は続ける。
「宮迫(博之)さんは闇営業騒動などいろいろあったため最初から注目度は高かったですが、それ以上にしっかり動画づくりやコラボ動画などを頑張ってきたという側面もある。その結果、チャンネル登録者数100万人に届きそうな勢いです。しかし、ユーチューバーとして成功すればするほど、吉本興業との溝は深まっているという話もありますが……。
4月からユーチューバーデビューした大御所芸人というと、千原ジュニアさんは小籔(千豊)さんやフットボールアワーさんと組んでチャンネルを立ち上げ、チャンネル登録者数は34万人超とさすがの仕上がり。内容もテレビバラエティのクオリティと比較しても遜色なく、毎週2回更新というのもほどよくて好感が持てるうえに、やはり手練れの芸人さんたちなのでシンプルにとても面白い。
一方、今田耕司さんもひっそりとユーチューバーデビューしたのですが、50代の独身貴族の私生活をゆるめに配信するというその内容にいまいちパンチが足りないからなのか、登録者数は3万人弱。 千原ジュニアさんの番組とほぼ同時期に始まったのですが、10倍の差がついています」
はじめしゃちょーら人気ユーチューバー擁するUUUMとの提携
4月28日には、ヒカキン、はじめしゃちょーら人気ユーチューバーが数多く所属する「UUUM」社とお笑い帝国・吉本興業との業務提携が発表される。これによって、芸人界のユーチューバーバブルにさらなる拍車がかかることは間違いないといわれている。吉本に近いある芸能関係者はこう語る。
「コロナ禍で劇場やテレビ収録がなくなりヒマになったのは芸人だけではなく、マネージャーをはじめとするスタッフたちも同じ。ちょうどこのタイミングでUUUMとの業務提携が発表されたため、吉本では『ヒマな時間を使って、動画配信でカネを稼げるネタを考えろ!』と大号令が発令されているそうです。とはいえ、UUUMに所属するヒカキンやはじめしゃちょーと誰もがコラボできるわけでもなく、イチから企画を考えなければならないケースがほとんど。吉本所属の芸人がやっているものだけで800チャンネルもあるといわれてますから、今までは芸人任せのスタンスを取っていたスタッフが多いなか、今後はスタッフも腰を据えて動画ビジネスのマネジメントしていく必要がある。結果的に吉本のスタッフは、コロナ禍で現場がなくなっても、動画配信のほうで相当忙しくなっているようですよ。
このコロナ禍が終息したとしても、今までのような“3密バラエティ”は縮小傾向になっていくと思います。ですから、テレビの出番を失ってしまう芸人が今後も増えていくでしょう。とはいえYouTubeチャンネルも予算は限られ、ライバルは多いしネタも枯渇気味という、なかなか苦戦を強いられる可能性が高い。コロナで在宅時間が長くなってるといっても、人がYouTubeに使う時間など限られてますから、芸人ユーチューバーだけが急増したって見向きもされないのが現状。結局、UUUMと業務提携しても得をする芸人はひと握りだと思いますね」
世界を混乱させているこのコロナ禍のせいか、競争は熾烈を極めている芸人ユーチューバーたち。果たして、“アフターコロナ”の時代に芸人上がりの新たな人気ユーチューバーは誕生しているのだろうか? 新型コロナの終息と同様、大いに待ちわびたいものである。
(文=藤原三星)