LIXILグループの最高経営責任者(CEO)に瀬戸欣哉氏が復帰して1年。創業家の潮田洋一郎前CEOとの対立の火種となっていたイタリア外壁材子会社、ペルマスティリーザを米投資会社アトラスにようやく売却した。売却額は非公開。ペルマは11年、潮田氏が主導して約600億円で買収した。家庭用が中心のLIXILグループは、ペルマが手掛けるカーテンウォールなどビル関連事業を思ったように伸ばせなかった。瀬戸氏は17年に中国企業への売却を決めたが、対米外国投資委員会(CFIUS)から承認が得られず見送られた。
経営方針をめぐって潮田・瀬戸の両氏は鋭く対立し、瀬戸氏は18年10月にCEOを解任された。その後、19年6月の株主総会を経て瀬戸氏が復帰した。売却計画を進めていた瀬戸氏が社長兼CEOに返り咲いたことで、ペルマの売却がようやく実現した。
LIXILグループの2020年3月期連結決算(国際会計基準)は最終損益(非継続事業のペルマを含む)が125億円の黒字(19年3月期は521億円の赤字)だった。黒字になった主因はペルマの関連損失が182億円(同777億円)に縮小したことだ。買収時ののれん代やペルマが持つ資産の減損損失が減った。
米企業に売却予定のペルマを除いた継続事業ベースの業績も公表した。売上高にあたる売上収益は微増の1兆6944億円、事業利益は7.5%増の585億円、当期利益は12.0%増の319億円だった。ハウジング事業の採算が価格改定や生産の効率化により向上した。21年3月期予想は「未定」とした。新型コロナによる部品供給の滞りは解消したが、世界各地のロックダウン(都市封鎖)などの影響が見通せないためだ。
メガバンク3行と総額1300億円の融資枠を設けた。3月末の現預金は958億円と前年同月比で32%減少。月商の0.7カ月分に当たる。一般的に安全とされる月商1カ月分を下回ったこともあり、融資枠(コミットメントライン)を設定した。
LIXILビバも売却
LIXILはホームセンターを運営する上場子会社、LIXILビバ(東証1部)を売却する。ホームセンター中堅のアークランドサカモト(同)が6月10日~7月21日にTOB(株式公開買い付け)を実施。LIXILグループ以外の株主から1株2600円で買い付ける。ビバの上場廃止後、LIXILグループはビバ株(53%、2336万株を保有)を1株2423円で売却し、566億円を得る。アークランドによる全体の買収総額は1085億円となる。LIXILグループはホームセンター事業から撤退し、本業の住宅設備事業に経営資源を集中する。
LIXILビバは1977年、旧トステム系のホームセンターとして設立された会社が前身。業界再編を経てLIXILグループの子会社になった。「スーパービバホーム」を東日本を中心に約100店展開。プロ用建材で強みを発揮してきた。
アークランドサカモトは1970年の創業。新潟県を中心に日本海側に巨大店舗「ホームセンタームサシ」が38店舗ある。アークランドの20年2月期の連結売上高は1126億円。一方、LIXILビバの20年3月期の単独売上高は1885億円だから、小が大を呑み込むTOB劇となる。アークランドは悲願の首都圏進出を果たし、売上高3000億円規模の大手ホームセンターの一角を占めることになる。
関係者によると、LIXILビバの売却計画は今年2月に浮上。売却候補として最大手のDCMホールディングス(東証1部)など大手ホームセンターの名前が挙がっていたが、アークランドサカモトは下馬評にものぼっていなかった。買い付け価格で高値を提示したことで金的を射止めたようだ。アークランドサカモトは、かつ丼専門店「かつや」を運営する子会社、アークランドサービスホールディングスも東証1部に上場。経営の多角化に注力している。
ホームセンター事業には創業家の潮田氏が愛着を持っていたという。しかし、LIXILビバの取り扱い商材の中でLIXIL製品のシェアは必ずしも高くない上に、LIXILビバと競合するホームセンターでLIXIL製品を扱ってもらえないという問題もあった。親子上場に対して株式市場から批判が強いことも売却方針を固めた理由の一つとみられている。
LIXILビバの売却は潮田路線の全否定の一環にほかならない。6月9日、オンライン会見した瀬戸社長は「メーカーに専念する。水回りや建材事業を中心にやっていく」と述べた。
旧経営陣が推薦した取締役6人のうち4人が退任
瀬戸氏が経営改革の柱に据えているのが、コーポレートガバナンス(企業統治)の改革だ。取締役を14人から9人に減らす、新しい経営体制を6月の株主総会に提案する。瀬戸氏と対立した旧経営陣(潮田派)が推薦した6人のうち4人が退任する。
取締役候補は瀬戸氏を含め、社内から3人。社外は6人。社内からは、松本佐千夫経理・財務・M&A担当兼最高財務責任者(CFO)と、ファ・ジン・ソン・モンテサーノ人事・総務・広報・IR・渉外・コーポレートレスポンシビリティ担当兼CPOの2人が新任だ。社外取締役は現在の9人から6人に3人減る。瀬戸氏側が推薦した鬼丸かおる氏(元最高裁判事)、鈴木輝夫氏(あずさ監査法人元副理事長)、西浦裕二氏(三井住友トラストクラブ元会長)、濱口大輔氏(企業年金連合会元運用執行理事)の4人と、旧経営陣が推薦した取締役会議長の松崎正年氏(コニカミノルタ取締役会議長)と内堀民雄氏(ミネベアミツミ元取締役)の2人が続投する。
退任は7人。河原春郎氏(JVCケンウッド元会長)、カート・キャンベル氏(元米国務次官補)、三浦善司氏(リコー元社長)、大坪一彦氏(LIXILグループ執行役副社長)の4人が旧経営陣の推薦だった。一方、瀬戸氏側は反潮田の急先鋒だった旧INAX創業家出身の伊奈啓一郎氏(LIXILグループ取締役)、川本隆一氏(同)、吉田聡氏(LIXIL取締役)の3人が辞める。吉田氏は執行役専務に就く。
傘下の事業会社LIXILを12月1日付で合併し、持ち株会社との二重構造を解消する。伊の外壁材子会社、LIXILビバの相次ぐ売却、経営陣のスリム化と瀬戸氏が主導する経営体制が、ようやく整った。With・コロナに向け、瀬戸改革の第2幕の幕が上がる。
(文=編集部)