最近よく見る筒状の電子たばこ・IQOS、発売直後にたばこ市場塗り替え…煙出ず害激減
元来、「男の色気」におけるたばこの存在は大きかった。たばこの似合う男性といえば、古今東西、色男と決まっていた。米ハリウッドではジェームズ・ディーンやクリント・イーストウッド、日本では松田優作、石原裕次郎、アニメの世界ではルパン三世に出てくる次元大介。煙をくゆらせながらの渋い演技にしびれた、我々お父さん世代も少なくないのではないか。最近では、西島秀俊がたばこの似合う俳優の座を勝ち得ているようだ。
少年時代に、おもちゃのたばこをくわえながら、たばこを吸う俳優の仕草をまねしたり、かっこいいマッチの擦り方やライターのつけ方を研究したりと、憧れだった大人の世界は、常にたばことともにあった。
また、たばこは大人への第一歩、あるいは幼い自分との決別の証でもあり、(当然違法ではあるものの)背伸びをしたい未成年が、こぞってたばこに手を出していた時代もあった。
我々お父さん世代にとって、若い頃の思い出に占めるたばこの存在は決して小さくはないと思うが、社会の変化の波にもまれ、たばこの存在感も大きく変化してきている。
たばこ産業の衰退
健康意識の急激な高まりを受け、世界的に禁煙の波が広がっている。公共の場のみならず、オフィスや自宅でも思うようにたばこが吸えなくなってきており、喫煙者にとってはまさに受難の時代だ。一昔前までは、電車や飛行機の席でも喫煙可能だったが、それが嘘のようである。
日本たばこ産業(JT)が公開しているデータによると、男性の喫煙率は年々低下傾向にあり、直近のデータでは、いよいよ30%を切ったそうである(下図参照)。 我々お父さん世代が生まれた頃(1960~70年代)は、男性の喫煙率は80%前後で推移していたというから驚きだ。
当然のことながら、喫煙率の低下とともに、たばこの売れ行きも急減している。国内で販売されるたばこの本数は、96年の3500億本をピークに毎年減少を続け、近年はピーク時の約半分の1800億本前後で推移している。あれほど社会に浸透していたたばこが、わずか20年で半減しているのだ。
たばこ業界におけるイノベーション
このまま衰退の一途をたどり続ければ、いずれ市場が消滅するのではないかと思われていたたばこ業界であるが、さすがに手をこまねいて見ているわけではなかった。猛烈な逆境にさらされるたばこ業界において今、新しいイノベーションが注目されている。
フィリップモリスが2015年に発売開始をした、IQOS(アイコス)だ。電子たばこ、加熱式たばこなどと呼ばれることもあるが、火を使わずに電気で加熱する、新しいタイプのたばこである。
フィリップモリスが実に2500億円もの開発費を投入したというから驚きである。JTが1年間に費やす研究開発費の総額が500億円前後であるから、この2500億円という開発費がいかに膨大な額か、想像できるのではないか。1製品にかける開発費としては破格であり、そこに、フィリップモリスの本気度がうかがえる。
ちなみに15年9月の発売開始直後から品切れ状態が続いているというから、まずまずの滑り出しだと考えてよいだろう。フィリップモリス・ジャパンによると、16年4月には販売台数が100万台を超えたそうだ。6月終了時点で、シェアが2.7%まで拡大し、早くも従来型の紙巻きたばこの売れ行きにも影響を及ぼし始めているという。
このIQOS、どこがユニークなのか簡単に解説してみる。
IQOSの特徴
まず、電気加熱式なので、火を使わない。したがって煙も出ないし灰も出ない(多少の水蒸気が出るが、すぐ消える)。当然副流煙の心配もない。さらに有害物質が大幅に少ない(通常の煙草に比べ90%低減)。それでいて、それなりに「たばこ感」がある。
一方で、1本につき14回吸い込む、あるいは6分たつと終了。1本吸った後には、充電のために約6分待つ必要があり、連続で吸えない。また、重いのでくわえたばこができないなどの物足りなさも指摘されている。
ちなみに本体価格は9980円で、初期投資がかかる。20本入りのヒートスティックが460円。紙たばこが400円前後なので、やや高めか。また、購入のためには登録が必要で、当然未成年は購入できない。
これらの概要を踏まえ、紙たばこから乗り換えるかどうかの判断が必要となるわけである。
今後どうなるか
家族や奥様からの支持率は総じて高いようであるし、乗り換えた愛煙家たちも、比較的満足度は高く、果たして今後どのくらいの喫煙者がこれらの新しいたばこに乗り換えるのかは注目である。
急激な減少を続けるたばこ業界において、新しい技術で一石を投じたことは間違いなく、もしこのイノベーションで、市場の減少を食い止めることができるとしたら、その意味合いは大きく、IQOSの売れ行きからはしばらく目が離せない。
ちなみに、IQOSが普及することにより、「大一番を前に、たばこを地面に投げ捨て、ブーツの底でぐりぐりともみ消す」などという、少年時代にあこがれていたキザな仕草が不可能になってしまうのかと思うと、ちょっとだけ寂しい気もするが。
(文=星野達也/ノーリツプレシジョン取締役副社長、ナインシグマ・ジャパン顧問)