日本でもポケモンGOがリリースされ、1カ月が経過した。社会現象になった公開直後の熱気は沈静化してきたが、いまだに話題には事欠かない。
先日も以下5項目のギネス世界記録認定がされたという。
・配信最初の1カ月での最多ダウンロード数
・売上高1億ドルが過去最速
・最初の1カ月の売上高が過去最高
私の周りでも、10代の大学生や20代の社会人を中心に、かなりの人がポケモンGOをダウンロードし、プレイしている。
「ポケモンやってますか?」
「レベルはいくつです?」
という会話から、楽しくビジネスの本題に入っていけるのだ。
さらに、各所から「ポケモンGOのビジネス活用」について講演・執筆依頼を受けていることもあり、毎日のようにプレイしている。息子が6歳くらいの時にゲームボーイを一緒に遊んでいたこともあり、ポケモンの遊び方はわかっている。
しかし、当時のゲームとはまったく違う面白さと魅力があるのだ。これこそが、世界的にヒットしている理由といえる。
そもそもポケモンGOとは何か?
まずは、ポケモン GOとは何かから、考えていく。
このゲームは、米ナイアンティックと任天堂、ゲーム企画会社のポケモン社が共同で開発した、スマートフォン(スマホ)用オンラインゲームである。スマホに内蔵されている位置情報機能「GPS」を使い、ポケストップと呼ばれるスポットに近づいたりすると、隠れているポケットモンスターが出てくるので、捕まえたり、ジムで強化したりするという内容。
街中の情報は、グーグルの企業内スタートアップ企業であるナイアンティックラボが開発した、グーグルマップをベースにしたゲーム「イングレス」上で動くことになる。
基本コンセプトは、これまであったゲームのポケモンと同じだが、リアルな街の中にポケモンがいるので、現実と同時進行で、しかも「仲間と一緒にできる」という点が新しく、面白いのでウケているといえる。
プロダクトとしてのポケモン GO
では何が理由で、このようにポケモンGOが一気に浸透したのだろうか。「自然に売れる仕組み」は、何を、誰に、どうやって買ってもらうか、の3つの要素の組み合わせになる。
ポケモンGOのヒットの理由を、この3つの要素で考えてみたい。
まず、製品やサービスを指す「何を」に当たるのは、ゲームそのものである。ポケモンGOは「世の中になかった、まったく新しいゲームではない」ということが興味深い。
ポケモンGOは、VRの延長のAR(拡張現実 Augmented Reality)、グーグルマップとイングレス、そして旧来からあるゲームとしてのポケモンの組み合わせなのだ。
既存の製品同士をくっつけることで、新しい価値を生み出している。その意味で、ブルーオーシャン戦略であり、既存の製品同士を組み合わせた「新結合」である。
ここで重要なことは、新しい顧客価値の創造は、必ずしも「ゼロからの開発ではない」という点にある。
ポケモンGOをやっているのは誰か?
次に、ターゲティングである「誰に」を考えてみる。
新結合としてのブルーオーシャン戦略の良い点は、それぞれの既存のプロダクトのファンを、新しく取り込める点にある。
ポケモンGOの場合は、ポケモンファンと、スマホゲームファン、イングレスのユーザーがプレイをすることで、ポケモンだけ、スマホゲームだけしかやっていなかった層が、こぞってポケモンGOをプレイする。そこから、その周辺の人たちに広がっているようだ。
先日、名古屋のポケモンGOの聖地と呼ばれる鶴舞公園に行って観察をしてみた。マーケティング活動において、ターゲットがいる現場に行って実際に見てみることで、ユーザーの本音(インサイト)を発見できることがある。
誰と来ているのか?
では、「どうやって」ヒットにつながったのか? ポケモンGOに関しては、それほど多くの広告を打っているようには思えなかった。
ここでは、ユーザー同士の「拡散」について考えてみたい。ポケモンGOのゲーム内で使えるツールに、「ルアーモジュール」というアイテムがある。これを使うと、30分の間、その周りにポケモンが集まってくるというものだ。
複数のプレイヤーで外に行きこれを使えば、もちろんポケモンが捕まえやすくなるし、「あそこに行けば、ポケモンがたくさんいるぞ」という口コミにもつながりやすい。
そもそも、ポケモンGOは「プレイヤーを屋外に連れ出す」というユニークさを持っている。まだ、プレイヤーどうしでポケモンの交換はできないが、SNS時代の新しい製品拡大の手法の参考になりそうである。
中小企業が参考にすべきこと
ポケモンGOから学ぶべきことは、「顧客価値は、ゼロからの開発ではなく既存の製品の組み合わせ」であること。
先ほど述べた、「新結合」で新製品を開発する際に大事なのは、以下の2点である。
1.既存の製品(またはサービス)はどちらも有名なものにすること
2.意外な組み合わせにすること
「そうはいっても新しい発想ができないんです」という方がいるが、それは「思考が停止する」からである。「うちの会社は、このやり方で成功してきたんだ!」という「過去の成功体験」や、「そんなのこうに決まっている」という「固定観念」が、柔軟な発想を出すことを邪魔する。
固定観念と過去の成功体験を捨てて自由な発想ができれば、新しい道が見えてくるのだ。
(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)