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理央周「マーケティングアイズ」

ポケモンGO、実はそれほど「斬新」ではないのに、なぜ劇的に人々の間で「拡散」?

文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長
ポケモンGO、実はそれほど「斬新」ではないのに、なぜ劇的に人々の間で「拡散」?の画像17月22日に配信が始まった「ポケモンGO」

 日本でもポケモンGOがリリースされ、1カ月が経過した。社会現象になった公開直後の熱気は沈静化してきたが、いまだに話題には事欠かない。

 先日も以下5項目のギネス世界記録認定がされたという。

・配信最初の1カ月での最多ダウンロード数
・売上高1億ドルが過去最速
・最初の1カ月の売上高が過去最高

 私の周りでも、10代の大学生や20代の社会人を中心に、かなりの人がポケモンGOをダウンロードし、プレイしている。

「ポケモンやってますか?」
「レベルはいくつです?」

という会話から、楽しくビジネスの本題に入っていけるのだ。

 さらに、各所から「ポケモンGOのビジネス活用」について講演・執筆依頼を受けていることもあり、毎日のようにプレイしている。息子が6歳くらいの時にゲームボーイを一緒に遊んでいたこともあり、ポケモンの遊び方はわかっている。

 しかし、当時のゲームとはまったく違う面白さと魅力があるのだ。これこそが、世界的にヒットしている理由といえる。

そもそもポケモンGOとは何か?

 まずは、ポケモン GOとは何かから、考えていく。

 このゲームは、米ナイアンティックと任天堂、ゲーム企画会社のポケモン社が共同で開発した、スマートフォン(スマホ)用オンラインゲームである。スマホに内蔵されている位置情報機能「GPS」を使い、ポケストップと呼ばれるスポットに近づいたりすると、隠れているポケットモンスターが出てくるので、捕まえたり、ジムで強化したりするという内容。

 街中の情報は、グーグルの企業内スタートアップ企業であるナイアンティックラボが開発した、グーグルマップをベースにしたゲーム「イングレス」上で動くことになる。

 基本コンセプトは、これまであったゲームのポケモンと同じだが、リアルな街の中にポケモンがいるので、現実と同時進行で、しかも「仲間と一緒にできる」という点が新しく、面白いのでウケているといえる。

プロダクトとしてのポケモン GO

 では何が理由で、このようにポケモンGOが一気に浸透したのだろうか。「自然に売れる仕組み」は、何を、誰に、どうやって買ってもらうか、の3つの要素の組み合わせになる。

 ポケモンGOのヒットの理由を、この3つの要素で考えてみたい。

 まず、製品やサービスを指す「何を」に当たるのは、ゲームそのものである。ポケモンGOは「世の中になかった、まったく新しいゲームではない」ということが興味深い。

 ポケモンGOは、VRの延長のAR(拡張現実 Augmented Reality)、グーグルマップとイングレス、そして旧来からあるゲームとしてのポケモンの組み合わせなのだ。

 既存の製品同士をくっつけることで、新しい価値を生み出している。その意味で、ブルーオーシャン戦略であり、既存の製品同士を組み合わせた「新結合」である。

 ここで重要なことは、新しい顧客価値の創造は、必ずしも「ゼロからの開発ではない」という点にある。

ポケモンGOをやっているのは誰か?

 次に、ターゲティングである「誰に」を考えてみる。

 新結合としてのブルーオーシャン戦略の良い点は、それぞれの既存のプロダクトのファンを、新しく取り込める点にある。

 ポケモンGOの場合は、ポケモンファンと、スマホゲームファン、イングレスのユーザーがプレイをすることで、ポケモンだけ、スマホゲームだけしかやっていなかった層が、こぞってポケモンGOをプレイする。そこから、その周辺の人たちに広がっているようだ。

 先日、名古屋のポケモンGOの聖地と呼ばれる鶴舞公園に行って観察をしてみた。マーケティング活動において、ターゲットがいる現場に行って実際に見てみることで、ユーザーの本音(インサイト)を発見できることがある。

誰と来ているのか?

 では、「どうやって」ヒットにつながったのか? ポケモンGOに関しては、それほど多くの広告を打っているようには思えなかった。

 ここでは、ユーザー同士の「拡散」について考えてみたい。ポケモンGOのゲーム内で使えるツールに、「ルアーモジュール」というアイテムがある。これを使うと、30分の間、その周りにポケモンが集まってくるというものだ。

 複数のプレイヤーで外に行きこれを使えば、もちろんポケモンが捕まえやすくなるし、「あそこに行けば、ポケモンがたくさんいるぞ」という口コミにもつながりやすい。

 そもそも、ポケモンGOは「プレイヤーを屋外に連れ出す」というユニークさを持っている。まだ、プレイヤーどうしでポケモンの交換はできないが、SNS時代の新しい製品拡大の手法の参考になりそうである。

中小企業が参考にすべきこと

 ポケモンGOから学ぶべきことは、「顧客価値は、ゼロからの開発ではなく既存の製品の組み合わせ」であること。

 先ほど述べた、「新結合」で新製品を開発する際に大事なのは、以下の2点である。

1.既存の製品(またはサービス)はどちらも有名なものにすること
2.意外な組み合わせにすること

「そうはいっても新しい発想ができないんです」という方がいるが、それは「思考が停止する」からである。「うちの会社は、このやり方で成功してきたんだ!」という「過去の成功体験」や、「そんなのこうに決まっている」という「固定観念」が、柔軟な発想を出すことを邪魔する。

 固定観念と過去の成功体験を捨てて自由な発想ができれば、新しい道が見えてくるのだ。
(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)

理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長

理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長

●理央 周(りおう めぐる、本名:児玉 洋典)

マーケティング・コンサルタント、企業研修講師。1962年生まれ。静岡大学人文学部卒。フィリップモリスなどを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBAを取得。アマゾンジャパン株式会社、マスターカードなどで、マーケティング・マネージャーを歴任。2010年に起業。収益を好転させる中堅企業向けコンサルティングと、従業員をお客様目線に変える社員研修、経営講座を提供。2013年より関西学院大学経営戦略研究科教授として教鞭をとる。著書は『「なぜか売れる」の公式』(日本経済新聞出版社)、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(日本実業出版社)など。商工会議所や経営者会での講演、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌への出演、寄稿も多数。


マーケティングアイズ株式会社

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