先日、編集者と東京・赤坂の居酒屋で打ち合わせした時、彼がメニューを見ながら、「では、この熊本産を使ったやつをください」と注文した。「何?」と聞いたところ、「この店では熊本産の食材を使った料理を頼むと、売上の一部が熊本地震の被災者支援のための寄付金にあてられるのです。なので、今日は熊本産の食材を中心にいきます」という返事が返ってきた。
彼は筆者よりも一回り以上も年下なのだが、聞いてみると、同世代の人たちはこうした選び方を普通にするらしい。年長者として普段は偉そうなことを言っている割に、無駄遣いばかりしている筆者は非常に恥ずかしい思いをした。
こうした消費行動を「倫理的消費(エシカル消費)」という。2015年3月24日に閣議決定された消費者基本計画では、倫理的消費を「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動」と定義している。
日本ではまだ日が浅く、馴染みの薄い「倫理的消費」だが、その歴史は意外に古く、英国では、30年近く前の1989年には「エシカル・コンシューマー(倫理的消費者) 」という専門誌が創刊されている。
倫理的消費の意味合いも、消費者基本計画における定義よりも広義で、被災地産品の応援消費や障害者などの支援のための消費から、環境問題、資源保護などにつながるようなエコ製品やリサイクル製品、あるいは環境や資源保護のための寄付付き製品なども含まれる。さらに、地産地消や地方の伝統品といった地域活性化商品、動物保護、動物福祉に関連した商品など、その分野も多岐にわたる。
フェアトレード
なかでも、海外では発展途上国でつくられた作物や製品を適正な価格で継続的に取引することによって、生産者の持続的な生活向上を支える「フェアトレード」に対する取り組みが進んでおり、フェアトレード商品に対する倫理的消費が行われている。
たとえば、2014年のフェアトレードの市場規模は特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパンによると、全世界で約8300億円に上ると推計されているのに対して、日本の同市場の規模は約94億円しかないと推計されている。海外では学校教育の中で、倫理的という観点から消費行動を学ばせるなど、教育のなかに倫理的消費が入り込んでいる。こうした教育が行われていない日本との差は大きいと思われる。