南シナ海における中国とフィリピンの領有権の問題について、7月にオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が「中国の主張には法的根拠がない」という判決を下した。この裁定について、中国は「紙くず」と認めない姿勢を貫く一方、当事者のフィリピンやアメリカは「判決を尊重すべき」と圧力をかけている。
この判決に強制力はないが、国際法に基づく裁定であり、「それに従うべき」というアメリカの理屈は当然といえる。また、アメリカとしては、この中国の判決拒否を許せば、国際的な領土問題の仲裁そのものが無効化されてしまう事態も招きかねない。中国だけにわがままが許されるということはあり得ないため、ほかの国に対しても、このような強引な領土拡張を認めざるを得なくなってしまうわけだ。
法治主義においては「法の下の平等」が原則だが、それを無視するような中国の態度は世界的に非難されて当然であると同時に、国際社会はその原則の遵守を強く求め続けることが必要だ。
逆に、中国としては、これ以上の南シナ海の領土拡張は難しくなったということで、東シナ海の尖閣諸島に大量の船舶を航行させるというトンデモ行動に出た。この挑発行動ともとれる領海侵入に対しても、アメリカは「日米安保条約が適用される」と牽制している。
基本的に、これまで西側諸国は「武力行使による既存の支配体制の変更は認めない」という方針をとってきた。「法の支配3原則」として、「国際法に基づく主張」「力や威圧を用いない」「司法手続きを含む平和的解決」があり、これらに当てはまらない例を一国でも許してしまうと、ほかの国に対しても許さざるを得なくなってしまう。それは世界の司法体系や秩序の崩壊につながってしまうため、そうした国を認めるわけにはいかないのだ。
冷戦時代に戻ったかのような対立構造
さかのぼれば、第二次世界大戦後に西側と東側に分かれるかたちで2つの秩序体制が生まれた。西側諸国は「自由」「人権」「普遍的価値観に基づく法による支配」という3つの条件を基本路線にすると同時に、東側諸国に対してもそれを要求し続けてきた。
一方、東側諸国は共産主義とはいうものの、実態は共産主義を標榜した独裁政権であった。中国も旧ソビエト連邦も共産党による一党独裁であり、事実上、共産主義を利用した単なる独裁政権だったといえる。また、「独裁=人治主義」であるため、権力者がルールを決めて、国民はそのルールに従うという構図である。法治主義とは正反対の世界であり、例えば、言論の自由すら認められていない中国では、人権が守られていないも同然だ。
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