6月に実施された国民投票により、イギリスはEU(ヨーロッパ連合)を離脱することが決定、今後はヨーロッパの分裂が懸念されている。11月に大統領選挙を控えるアメリカでは、当初は泡沫候補と見られていたドナルド・トランプ氏が共和党の指名候補を勝ち取り、民主党では「民主社会主義者」を標榜するバーニー・サンダース氏の躍進も耳目を集めた。
アジアに目を向けると、中国とフィリピンの南シナ海の領有権をめぐり、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が「中国の主張には法的根拠がない」という判決を下したことで、中国と東南アジア諸国、および日本との関係が注視されている。
今、世界で何が起きているのか。7月に『欧州壊滅 世界急変:「英EU離脱」で始まる金融大破局の連鎖』(徳間書店)を上梓した著者の渡邉哲也氏に聞いた。
国民の不満とエゴイズムが噴出する欧米
――まず、6月の国民投票では、大方の予想を裏切ってイギリスのEU離脱が決定しました。
渡邉哲也氏(以下、渡邉) これは、EUはもちろん、戦後の枠組みと近年のグローバリズムの崩壊を意味する出来事です。近年、イギリスだけでなく、ヨーロッパ全体に移民に対する排斥の意識が高まっており、それが保守的な思想に基づく離脱派の勝利につながりました。
また、フランスの国民戦線やイタリアの五つ星運動など、各国でEUやユーロに懐疑的な見方を示す政党が台頭しています。おそらく、イギリスのEU離脱後の世界は、各国のナショナリズムがより強く打ち出されていくことになるでしょう。さらに、17年には、フランスで大統領選挙、ドイツとオランダで総選挙が予定されており、その結果次第では、EUおよびユーロの瓦解が一気に進むことになると思われます。
渡邉 移民問題などの政治的課題にしろ、金融政策にしろ、統合によるメリットよりもデメリットのほうが顕在化しているような現状では、国民は統合の動きに対して反発するようになり、それはやがて国家間の対立を深めることにつながります。
そうした流れは、アメリカの大統領選挙も同じです。トランプ氏とサンダース氏の主張は、いずれもアンチグローバリズムの色合いが強いものであり、特に「アメリカ第一主義」を唱えるトランプ氏の移民や経済に関する政策は、ヒト・モノ・カネの動きに壁をつくろうというものです。この2人の躍進は「アメリカの異変」などと報じられましたが、今は各国で国民の不満とエゴイズムが表出している状況なのです。
『欧州壊滅 世界急変:「英EU離脱」で始まる金融大破局の連鎖』 2016年6月24日、国民投票による英国のEU離脱決定で大揺れとなる世界経済。欧州解体の行方、今後の日本、中国、米国への影響と金融恐慌の可能性は。ブレクジット・ショックの世界を完全分析!