以前、本連載にてリキャップCBについて紹介しました。ゼロコストの転換社債を発行し、その調達資金により自社株買いを行い、財務レバレッジを高めてROE(自己資本利益率)を改善する。これがリキャップCBの目的でした。ちなみにROEとは、最終的なもうけを示す最終損益を自己資本で割って算出されるもので、株主から預かったお金(=資本)を活用してどれだけ利益を上げたのかを示す指標です。
しかし、転換社債は将来的に株式に転換される可能性があります。実際に株式に転換されるときには、社債が減り、資本が増えてしまい、「元の木阿弥」になってしまうという問題があります。つまり、一時的にROEをかさ上げするだけの意味しかないのです。長期的な投資家にとってはなんの意味もなく、逆に会社に対する信頼性にもマイナスの影響を与えかねない財務戦略とも考えられます。2016年6月にリキャップCBを公表した関西ペイントに対して、「見た目の自己資本利益率(ROE)が改善するだけだ。長期保有の株主は損をする」と機関投資家が不満を述べています(日本経済新聞朝刊 2016年6月24日)。
リキャップSBとは
SBとは、straight bond、つまり普通社債のことであり、リキャップCBで利用した転換社債の代わりに普通社債を活用するのがリキャップSBです。結論からいえば、リキャップCBの持つメリットをそのまま生かし、デメリットを解消する財務戦略なのです。しかも、低金利時代においては、転換社債と同様にほぼゼロコストで資金調達ができるため、今後はリキャップCBからリキャップSBに関心が移っていくことでしょう。
ではリキャップSBについて詳しくみていきましょう。転換社債か普通社債かの違いはあれ、社債で調達した資金で自社株買いを実施し、資本を減少させることによりROEを改善するメリットも、リキャップCBと同様です。
リキャップCBの売りのひとつは、転換社債の発行コストがほぼゼロな点ですが、低金利により普通社債のコストも大幅に下がっている以上、あえて転換社債を利用する理由がなくなっています。しかも、普通社債であれば、転換社債のように株式に転換されて発行済み株式総数が元の水準に戻ることもありません。ですから、ROEの改善も持続的なものとなります。とはいえ、総資産には変化がないため、ROA(総資本利益率)やキャッシュフローには影響はないのですが、収益性は高いが、資本効率性に問題があるような企業が効果的に財務レバレッジを高めることが可能となります。