「とんがりを失った」ホンダ、完全復活の予兆…過去と決別の「聖域なき経営改革」断行
好例は、北米のカーオブザイヤー2016を受賞した新型「シビック」です。開発はアメリカがリーディングしましたが、アメリカの意思を入れつつ、グローバルで通用するよう進化させた。欧州に通じる走りや5ドアなど、ほかの市場にも配慮したクルマです。
つまり、グローバル車の土台となる商品と技術を、基本的には日本の研究所でしっかりと開発し、それを地域の人たちに信じてもらって進めないといけない。一つひとつの機種について、いかに他社とは違うコンセプトを備え、質を上げるか。
片山 機種開発だけでなく、組織運営においても、創造性と効率性の両立が求められますね。
八郷 ホンダは、仕事がプロジェクトで動く会社でした。機種開発、工場の立ち上げ、新技術開発などは、そのたびにプロジェクトが立ち上がる。各部門代表が集まってルーチンで仕事をするわけではないんです。
プロジェクト単位で動き、“ワイガヤ”で進めるのはいいのですが、問題は時間がかかって効率がよくない。責任者が「四の五のいわずやれ!」というほうが速い。ただ、責任者がそうやって決めてしまうと今度は、あとからメンバーが腑に落ちなくて、出戻り感になったりする。つまり、事業の拡大と収益のバランスをとりながら、効率的に進めていくことが必要です。
片山 ワイガヤは、全員が納得できるという利点の一方、時間がかかる。効率との両立は簡単ではありませんね。
八郷 バランスをとるうえで問題になるのは、社内の若い人が元気かどうかです。社長就任後に事業所を回ると、30代の人達が「最近の若いヤツは」と、僕に話す。しかし、「若者批判」はいつの時代にもあるんです。問題は、「若い人」に対して我々がきちんと機会を与えられているかどうかでしょうね。
僕は、入社当時からいろんな現場に行きましたが、何も現地、現物、現実の「三現主義」が素晴らしいと思っていたから行ったわけではなく、不具合があると現場に行かなければわからないから、仕方なく行っていた。
片山 みんな、そのなかで「三現主義」の重要性を学びますね。
八郷 ところが、会社が大きくなってマニュアルができ、サポート体制が整ってくると、出張さえ「テレビ会議でやれば」となる。つまり、現場に行く機会が減るんですね。それによって、若い人たちの冒険心を奪うことになっていないか。
片山 ホンダの若手育成といえば、「二階に上げて、梯子をはずして火をつける」といわれました。つまり、信じて任せてきましたよね。
八郷 実際に若い人と話をすると、冒険心や挑戦する気持ちは、必ず持っているんですよ。それを引き出していくことが大切です。