「5年後か10年後には、近距離なら電力は無線で送られるようになると考えています。今や発電は誰でもできる時代。子どもがつくった電力を親が受け取ったり、おばあちゃんがつくった電力を孫が受け取ることもできるようになるでしょう。個々人の間で、気軽に電力の売買もできるようになると思います」
そう語るのは、太陽光や風力など自然エネルギーによる電力を供給する、みんな電力株式会社の大石英司社長だ。同社のコンセプトは、「顔の見える発電所」。生産者のプロフィールがわかるように売られている野菜があるが、それと同じように、どんな人たちがどのように発電しているのかわかるというものだ。
同社はいくつもの発電所から仕入れを行っているが、そのなかのひとつ「かあさん牛のヨーグルト工房発電所」を訪ねた。
東京の八王子。新宿から京王線で50分ほどの山田駅で下車し、コンビニエンスストアやレストラン、居酒屋、マンションが建ち並ぶ大通りを5分ほど行き、細い道に入っていくと、牛、豚、羊などが大地の上で寛いでいる。
ここが「磯沼ミルクファーム」。工房では独自のヨーグルトや乳製品をつくっており、世界で一番小さなヨーグルト工房でもある。牛舎の屋根にソーラーパネルが設置され、発電がされている。発電所を運営しているのは、「一般社団法人八王子共同エネルギー」、通称「はちエネ」である。牛舎を見渡せるオープンテラスで、「はちエネ」の加藤久人代表に話を聞いた。
「2011年3月11日の福島第一原発の事故で、他の地域の人々の犠牲のもとに、東京の電力がまかなわれている事実を突きつけられた気がしました。仲間たちと勉強会を重ねて、原発反対と訴えるだけでなく、オルタナティブな解決策を発信するほうが実りが多いのでは、という考えに至りました」
はちエネでは現在、「ユギムラ牧場ソーラー発電所」「結の会ソーラー発電所」を含め、3つの発電所を稼働させ、みんな電力に供給している。「顔の見える発電所」というコンセプトに共鳴してのことだ。
磯沼ミルクファームは、コーヒー工場・チョコレート工場でそれまで廃棄物となっていたカカオ殻・コーヒー皮、豆、粉を取り寄せて、牛舎のベッドとしている。牛の糞尿は農家・家庭菜園・学校農園に肥料として提供している。自然エネルギーを目指すはちエネのポリシーとぴったりと合致したのだ。牛、豚、羊がのびのびと暮らすなかで、はちエネはパーティ風に、楽しく語り合う勉強会を開くことも多い。