アマゾン、同じ商品をバラバラの価格で販売の「強大な権力」…メーカーを圧倒する小売業
セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問は以前から、「価格は価値のひとつだ」と発言していた。たとえば、2008年発行の『朝令暮改の発想』(新潮社)でも、「低価格は価値の一要素にすぎない」と書いている。このときは、深く考えもせず読み進めてしまったが、2015年の広報誌での発言には驚いた。
インタビュー記事で、「価値と価格の関係は、どうなっているのでしょうか?」という質問に、「まず、皆さんに理解してほしいことは、価格は価値のひとつだということです」と答えている。記事の見出しも、「価格も価値のひとつの要素」となっている。
「価格戦略」系の本には、基本的プライシング手法として、コストに基づいた価格決定、競争関係に基づいた価格決定、買い手が感じる価値に基づいた価格決定などが紹介されている。そのなかでも、継続的利益をもたらす手法として価値に基づくプライシングが今の常識とされ、『マッキンゼープライシング』(著:山梨広一・菅原章、訳:村井章子/ダイヤモンド社)の第二章のタイトルは「価格を決めるな、価値を決めろ」という勇ましいものとなっているくらいだ。
「値ごろ感」の意味を問われれば、経営者の多くは、「提供している商品(サービス)の価値に見合った価格、あるいはそれよりはちょっとお得感があると消費者が感じるような価格」と答えるだろう。価値に基づくプライシングの考え方が浸透しているからだ。
それなのに、なぜ「価格は価値のひとつです」などと言えるのかと、ずっと疑問に思っていたのだが、最近になってハタと納得できた。
小売業の人だから言えるコメントなのだ。メーカーの人は、こうは言わないだろう。一番わかりやすい例がアマゾンだ。
アマゾンでショッピングする理由には、「配達が早い」「サイトの使い勝手がよい」「品揃えが豊富」に加えて、「価格が安い」ということもあるはずだ。同じ商品でも、値段の異なるいくつかの出品者を並べて比較できる。
たとえば、パナソニックの「ヘアードライヤー ナノケア」(型番も同じもの)を例にとれば、出品者によって5つくらい異なる価格で提供されている。条件を比較してみると、安いものは配送に1週間くらいかかる。そして、配送日数が短いほど価格は高くなる。型番も同じまったくの同一製品が価格を含む異なる条件で販売され、買い手は比較対照して選ぶ。