アマゾン、同じ商品をバラバラの価格で販売の「強大な権力」…メーカーを圧倒する小売業
このように、アマゾンでは明らかに価格は価値の一要素となっている。メーカーから商品を仕入れて販売する小売業の立場からいえば、他の小売店でも同じ商品を販売しているのだから、価格は提供する価値の一部だ。だが、メーカーにとって、自分たちが提供するブランド(商品)の価格は買い手が知覚する価値に基づいたものでなくてはいけない。
ダイエー・松下戦争
メーカー(つくり手)と小売業(売り手)の価格に対するメンタリティ(心理構造)は大きく異なる。メーカーと小売業の関係の歴史は、ある意味、価格をめぐる戦いの歴史だ。
戦前、独占禁止法がなかった時代、メーカーは自社商品が安売りされないように、流通チャネル内の卸売業者や小売店を系列化し、リベートその他の特典を提供する代わりに、「決められた小売価格を守る」「類似商品を取り扱わない」などの取り決めを厳守させた。
このやり方を戦後、独禁法が1947年に成立してからも続けたのが化粧品業界だ。
資生堂の系列小売店制度(チェーンストア制度)は、1923年にさかのぼる。20年代は、第一次世界大戦後の不況に関東大震災による震災恐慌が重なり、乱売が盛んに行われ、小売店や問屋でも潰れるところが多かった。過度な安売りを防ぐために、全国で売られる資生堂商品の値段が同一になるような流通の仕組みとして、資生堂はチェーンストア制度を構築した。
第二次世界大戦後の1947年に独禁法が成立。これによって安売りが横行するようになるのを恐れた化粧品業界は強力なロビー活動を展開し、メーカーが小売店に定価を守らせることができる再販制度(再販売価格維持制度)の成立に成功した。再販制度を推進した趣旨は、おとり販売や乱売からブランドを守るためとなっている。ちなみに、再販制度は97年に撤廃された。
小売価格の維持に固執したのは化粧品メーカーだけではない。家電メーカーも同じで、安売りをする小売店、特に1960年代になって台頭してきた大規模小売店との軋轢は大きかった。有名なのが、松下電器産業(現パナソニック)とダイエーとの大ゲンカだ。
1964年から1994年の和解まで30年近く続いたケンカで、当時は「ダイエー・松下戦争」または「松下・ダイエー戦争」と呼ばれた。
ケンカの発端は、「価格破壊」を掲げたダイエーが、松下電器の商品をメーカー小売希望価格からの値引き許容範囲の15%を超える20%引きで販売しようとしたことにある。