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日本、デジタル技術導入スピードはルワンダ以下…日立、全社員16万人にDX研修実施

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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「GettyImages」より

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、世界中でデジタル・トランスフォーメーション(DX)が急速に進み始めた。特に、アジアやアフリカの新興国では急速にデジタル技術が普及し、日本が経験しなかった勢いで社会が大きく変化している。その影響は目を見張るものがある。

 トヨタ自動車日立製作所、サントリーホールディングスなど日本の主要企業も、DXによる社会の変化に置いて行かれないように必死に対応している。DXとは、デジタル技術によって世の中の仕組みは構造が大きく変わることを意味する。企業経営者として、そうした変革に置いてきぼりにならぬよう危機感を募らせているはずだ。その意味では、企業のDXへの対応は重大な死活問題になりつつある。

 海外のDXの進展に比べ、日本企業の取り組みはいまだ不十分といわざるを得ない。実際、ブロックチェーンの活用した情報管理や、データベースを駆使した製品設計技術の創出、さらにはAI技術を応用した医薬品の開発などDXの進展の勢いはすさまじい。そうした動きに遅れないためにも、企業のトップは覚悟を持って人材育成などに取り組む必要がある。それが当該企業の成長だけでなく、日本経済全体の成長に寄与する可能性も十分にある。

社会のシステムを根本から変えるDX

 企業経営の視点から考えた時、DXとは、人工知能(AI)やIoT (インターネット・オブ・シングス)などを用いて、より効率的な事業運営や、新しい需要の創出などを目指すことをいう。そのポイントは、データの分析を行い、得られた知見を新しい取り組みに生かすことだ。DXはすべての企業に関わる問題だ。

 日本企業にとってDXは数少ない成長のチャンスだ。ICT(情報通信技術)の世界的な普及によって、新興国では主要先進国とは異なるプロセスで通信サービスが普及し、動画視聴やオンラインゲームの利用者が急増した。さらに、SNSなどのプラットフォームから得られたデータを分析することによって需要やリスクなどを分析し、より効率的に収益を獲得することも目指されている。

 トヨタ自動車や日立製作所、三井住友海上など多くの日本企業が急速にDXへの対応を進め、社員の再教育を強化しているのは、デジタル技術が世の中を根本から変えているからだ。トヨタは執行役員数も削減し、内部の提言などが迅速に経営トップに伝達され、意思決定に反映される体制を目指している。同社は各人に、変化を機敏にとらえ、それを成長のチャンスに変える発想と論理構築力を求めている。

 その背景には、最終的に企業の成長を支えるのは人だ、という経営者の認識がある。コロナショックが発生しテレワークが当たり前になったことが、そうした認識を一段と強めている。テレワークによって、企業にとって必要な人材(自ら企業の成長をドライブできる人)とそうでない人材の差は、かつてないほどはっきりしてしまった。

 テレワークは働く場所も問わない。企業は世界各国から優秀な人材を確保しやすくなった。例えば、ECプラットフォーマーのショピファイ(カナダ)は、コロナショックによってテレワークが普及したことを、世界の優秀な人材を確保しさらなる成長を目指すチャンスととらえている。そうした認識から、欧米ではテレワークでの就業を恒久化する企業が増えている。DXのインパクトの大きさに、日本の一部企業は気づき始めた。

新興国で猛烈なスピードで加速するDX

 アジアなどの新興国では、日本以上のスピードと規模感でDXが浸透している。新興のITプラットフォーマーが、経済のデジタル化の旗手としての存在感を発揮し、世界の主要投資家の注目を集めている。それは、今後の世界経済のダイナミズムの源泉としてのアジア新興国の重要性が一段と高まっていることを意味する。

 東南アジアのライドシェア大手グラブ(シンガポール)や、その競合企業であるゴジェック(インドネシア)は、ライドシェアに加え銀行サービス、小売店からの商品購入など、日常生活を支えるインフラとしての役割を担っている。インフラ整備が初期段階にあるアフリカ各国でも、急速にデジタル技術の導入が進んでいる。ルワンダでは、米ジップラインが血液製剤のドローン輸送を実施している。いずれも、わが国にはないスピード感がある。

 そうした企業には、日本の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)や大手総合商社、自動車メーカーなどが出資している。コロナショックの影響もあり、デジタル技術の重要性はさらに高まるだろう。新興国地域での起業やデジタル技術を用いた新しいビジネスモデルの構築は加速化するだろう。そうした企業との提携や出資を行うことは、日本企業がアジア新興国などの需要を取り込むために欠かせない。

 そのためにも、デジタル技術を理解した人材の確保は急務だ。日立が全社員16万人にDX研修を実施するのは、デジタル技術をはじめとする専門的な知識を従業員が会得し、組織全体で変化への対応力を高めるためだ。そうした企業は増えている。

 日本企業は提携などによって得た知見を、包括的なITサービスやそれを支える製品の創出に生かさなければならない。出資や提携で留まるのではなく、最終的に需要されるサービスやモノを生み出すことが、日本企業がDXに対応し、それを成長のチャンスにするために欠かせない。問題は、現時点で国際競争に耐えられる日本発のアプリやデバイスが見当たらないことだ。DX以前のIT技術の活用において日本企業の置かれた状況はかなり厳しい。

DXがもたらす本格的な働き方改革

 世界的にみて、日本企業のDXへの取り組みは遅れている。従業員の能力開発に関する企業の支出がGDPに占める割合を見ると、日本は0.1%と米国(2.08%)やフランス(1.78%)を大幅に下回っている。ドイツではテレワークの常態化を見据えた法整備が進む。日本はかなりの危機感を持ってDXへの対応を進めなければならない。

 DXの時代、個人の力の重要性は格段に高まる。金融や経済、法律、マーケティングなどに関する専門知識を持つ人材へのニーズは高まる。それに加えて、データを収集して分析し、新しい知見を組織にもたらすことのできる力も不可欠だ。専門知識とデータ分析力を融合し、それを付加価値の創出につなげる個人の力が求められている。

 それは、新卒一括採用と終身雇用を重視した雇用形態の下で行われたゼネラリストを育成する発想とは異なる。自社の経営風土への習熟などを求めるカルチャーとも違う。日本の企業は長い間にわたって慣れ親しんだ発想から脱却し、新しい働き方を組織に浸透させなければならない。その考えに基づき、日立資生堂、富士通、KDDIなどの企業がジョブ型雇用への移行に取り組み、各人が職責を果たせるよう研修・教育制度を強化している。

 そうしたなかから、データ分析に関心を持ち、それが面白いと思う人が出始めたとしよう。その人は自らの知的欲求を満たすために自己研鑽に励み、労働市場における需要は追加的に高まるだろう。突き詰めて考えると、DXの進行によって特定の企業に属すのではなく自らの力で勝負する“フリーエージェント”の働き方が、これまで以上のスピードで増える可能性がある。DXは日本の働き方を根本から変えるだろう。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響や米中対立の先鋭化によって世界経済の先行きは見通しづらい。状況によっては、過去の買収案件から減損が発生し、日本企業の業績に下押し圧力がかかる展開もあるだろう。不確定要素が多い環境下ではあるが、日本企業の経営者には不退転の決意で、スピード感をもってDXへの対応を進め、専門知識とスキルの発揮を目指す人材の確保などに取り組まなければならない。そうした取り組みがどう進むかが、日本の企業だけでなく経済の先行きに大きな影響を与えるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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