2000年代に入ってからマイナスイオンブームが沈静化していくなか、シャープの「プラズマクラスターイオン」やパナソニックの「ナノイー」といった、各社独自技術でイオン系物質を放出するデバイスが開発されていった。
次の転機は、メキシコに端を発したH1N1亜型新型インフルエンザが流行し、日本でも感染者を出した09年だった。この年、国内の前年度の空気清浄機出荷台数は急増、イオン発生機能付きの電化製品も次々に開発されるようになった。
この年、シャープから発売されたのが、プラズマクラスター発生機付きのデジタル複合機だった。
だが、コピー機やレーザープリンターなどからは、もともとオゾンを発生することが知られており、1996年11月に制定されたエコマークのガイドラインでは、オゾンの放出について室内空気中の濃度が1立方メートル当たり0.02mgを超えないとする基準が設けられた(2000年12月に通常の使用で問題ないレベルまで改善されたとしてガイドラインから削除)。
イオン発生機はイオンと同時にオゾンも発生する。ということは、これまで一生懸命努力して削減してきたコピー機やプリンターから発生するオゾンを、わざわざまた追加していることになる
ただし、こうした迷走に陥っていたのは、シャープだけではない。パナソニックではナノイー機能搭載のテレビを発売している。撤退の噂が絶えないプラズマテレビにも搭載されているが、「静電霧化方式のナノイーを搭載しなくても、プラズマ放電でイオンやオゾンも出ているのではないか」という指摘がされている。
そのほかにも、富士通はパナソニックからナノイー発生機の供給を受けたパソコンを発売した。また、プラズマクラスター搭載のLEDシーリングライトや、ナノイー搭載の玄関ドア用室内額縁、便器内をイオンで浄化するシャワートイレなどなど、イオン系家電の輪はどんどん広がっていっている。
●ガラパゴス家電の答えはどこに?
シャープやパナソニックがどんなに批判されようと、空気清浄機も、掃除機も、エアコンも、複合プリンターも、性能自体は悪くない。むしろ、これだけの製品を開発できるポテンシャルは評価されてしかるべきだ。イオン発生機を搭載することにこだわることを除けば。これまで、多くの科学者・研究者から、狭い閉鎖空間で見られる効果は実生活空間並みの広さでは確認できない、第三者による実証データが乏しい、などの指摘もされてきた。さらに、効果そのものが、イオンよりもオゾンによるものではないかという異論も出て来ている。この状況は、マイナスイオンのブームが起きた10年以上も前とあまり変わらない。こうした疑問に対し、なかなか納得できる答えが出されないまま、製品が売られ続けているのだ。
消費者庁から措置命令を受けたシャープは、すでにカタログやウェブの表示を修正しているが、11月28日の自社ニュースリリースでは、問題は「カタログ等での表示に関するもの」であり、「プラズマクラスター搭載製品の性能について、問題とされているものではありません」と明記している。
(http://www.sharp.co.jp/corporate/news/121128-b.html)
だが、消費者庁の措置命令に関するニュースリリースにも、はっきりこう記されている。
「対象商品は、その排気口付近から放出されるイオンによって、対象商品を使用した室内の空気中に浮遊するダニ由来のアレルギーの原因となる物質を、アレルギーの原因とならない物質に分解又は除去する性能を有するものではなかった」
消費者庁が指摘しているのは、確かに「カタログ等での表示に関するもの」だが、同庁では専門家のヒアリングや実証試験などを行った上でこの結論に至ったものであり、かなり慎重に検討した結果であるとみていい。