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西武HDへTOBのサーベラス、記者会見でも「友好関係望むが強行手段」の疑問に答えず

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 また、フォスター氏は、「サーベラスの保有株を、条件次第では第三者にまるまる転売する可能性があるのか?」との質問に対し、「日本で長期的な投資をする機関として、そして立派な企業市民としてふるまっているということ、その点で実績を出してきたということ自体に誇りを持っている」と言い切った。その上で、「いかなる提案も、日本における定評を十分に考慮に加え、長きにわたって良き企業市民としてやっていきたいという思いも、十分考慮に入れて判断させていただく」とし、転売の可能性は否定しなかった。

●目立つあおぞら銀行人脈

 ところで、今回サーベラス側が取締役候補に加えた8名の顔ぶれを見渡すと、あおぞら銀行人脈が目立つ。サーベラスはあおぞら銀行株を57.8%保有していたが、今年1月に国内外で売出しを実施、保有割合を8%弱に減らしている。

 これまであおぞら銀行の筆頭株主として6名の社外取締役を送りこんでいたが、ここまで保有割合が減れば送りこむ人数も当然減らすことになるだろう。2009年6月から昨年秋まで同行会長職にあった白川祐司氏は、後任に会長職を譲り現在は取締役だが、サーベラス出身ではないので“まったく独立した立場の4名”のひとりとして、サーベラスが西武HDへ推薦する取締役候補に名を連ねている。サーベラス推薦の取締役全員が株主総会で選任されれば、あおぞら銀行から西武HDに何人かが引っ越してくる格好になる。

 最も気になるのは、これだけの“大物”たちを取締役に迎えるとなったら、一体どれだけ報酬を払うのだろかという点だ。

 西武HDは2012年3月期に社内取締役8人に総額2億2700万円、社外取締役2人に2700万円の役員報酬を支払っている。サーベラス推薦の取締役たちがこぞって破格の低報酬でよしとしてくれればコストアップにはならないが、単純に2012年3月期の実績を2倍すれば5億円である。

 相変わらず疑問が解決しない会見だったが、あくまで個人的にではあるが、筆者がもっともだと思った発言が2つだけあった。

●サーベラスの主張する“正論”

 ひとつは、3月26日に西武HDが発表した13年3月期業績予想の下方修正についてだ。西武HDは400億円~414億円としていた営業利益予想を380億円に、183億円~197億円としていた当期純利益予想を124億円に下方修正した。業績予想は会社によって出し方が異なり、極端に保守的な数字を出し、常に着地は大幅な計画超過という上場会社、つまり死んでも下方修正だけは出したくないという上場会社は少なくない。だが、西武HDの場合はこの時期の下方修正だけに、着地が大幅な計画超過という可能性は極めて低い。「計画通りに着地しないことはままあるが、上場しようという年に下方修正はない。その点も重大な問題だと考えている」とフォスター氏は発言したが、正論といえよう。

 もうひとつは、時価ベースの資産価値を株式価値算定に反映していないことを指摘した点だ。西武HDが主幹事のみずほ証券との間で行っていた、株式価値算定に関する協議から外されていたサーベラスは、自らみずほ証券との間で株式価値算定に関するディスカッションをしている。この結果、「有価証券報告書と上場株価算出のミスマッチが存在する」ことに気が付いたと主張している。つまり「資産価値、それも時価ベースでの資産価値を企業価値算定のプロセスで考慮すべきなのに、考慮した形跡がなかった」という意味だ。

 アベノミクス効果で株価が上がったとはいえ、PBRが1倍を割る銘柄がまだまだ大量に存在する日本市場。大流行した優良会社の非公開化のためのTOBでは、TOB価格は市場価格に対するプレミアムのみで語られ、TOB価格検証のプロセスで純資産価値を考慮する会社はほぼ皆無に等しいという状況だ。だから安値でのTOBが可能になり、非公開化が一大ブームになったのだ。莫大な含み益を持つ資産があるのに、資産の運用効率が悪く収益率が低いと、その会社が稼ぐ収益から導き出す株価は莫大な含み益をまったく反映しない。

 純資産価値は会社を解散するときにのみ検証するもので、生きた会社の売買で検証する合理性がない、という説を唱えるM&Aの専門家が圧倒的多数を占め、会社の売買価格に純資産を考慮すべきなどという見解を述べる専門家はほとんどいない。それだけに売出価格に時価ベースの資産価値を反映させろという主張は、真っ当なものといえるだろう。また、サーベラスは、1株当たり1400円という公開買付価格に、資産の含みが含まれているのかどうかについても、TOB期間中に株主に向かって説明する必要がある。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

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