地域名がブランドとなる食肉が目立ってきています。豚肉では、世界的に有名なスペインのイベリコ豚、日本のかごしま黒豚、牛肉では松阪牛や神戸ビーフ、中部地域を中心に絶大なる人気を誇る飛騨牛などが有名です。
産地ブランド牛は生産者、流通業者、消費者に大きなメリットをもたらしています。まず、生産者や流通業者に対して、高価格で取引される場合が多い産地ブランド牛は、より大きな利益をもたらすことになります。また、消費者においては、「おいしい肉が食べられた」「贅沢できた」といった、いわゆる“ご褒美消費”が実現するわけです。
しかし、みなさんは産地ブランド牛についてどれほどご存じでしょうか。地域の名前がついているのだから、当然、その地で生まれ育ち、各銘柄独自の系統の牛であり、独自の餌や飼育方法となっていると理解しているのではないでしょうか。
たとえば、神戸ビーフの場合、厳格な定義があります。それは、兵庫県の県有種雄牛のみを歴代にわたり交配した但馬牛が素牛であること。また、繁殖から肉牛として出荷するまで兵庫県内で飼養管理した、生後28カ月齢以上から60カ月齢以下の雌牛・去勢牛であること。脂肪交雑基準2マイナス以上。このように、高級なブランド牛に対して一般消費者が抱くイメージにかなり近いものもありますが、実はこうした例はまれです。
産地ブランド牛の多くは、地域外で産まれた牛も許容しており、各銘柄独自の系統の牛といった制限もありません。また、実際の飼育は各農家で行われており、餌や飼育方法が統一されていないということも珍しくありません。逆に、産地ブランド牛において統一されていることといえば、その地域で一定期間、飼育されていることくらいでしょう。
つまり、産地ブランド牛と聞くと、非常に特別なものと感じてしまいがちですが、要するに、「一定期間、その地で育った牛」であるにすぎません。もちろん、上位の等級の肉しか流通しないように制限され、高価な値がついている場合が多く、消費者が口にするのはおいしい肉でしょう。
しかし、消費者の感覚としては、単なる黒毛和牛の5等級よりも、「いかにも」といった地名がついた産地ブランド牛に対して、根拠のない希少価値を感じて、ありがたがってしまうというのが常ではないでしょうか。筆者は間違いなく、このうちのひとりです。確かにブランドの力は絶大です。
現在のところ、産地ブランド牛においては、ビジネスとして、うまくいっている場合が多いようです。松阪や神戸といった老舗的存在に加え、緑豊かな地の名称が付与された産地ブランド牛などもうまく消費者の心をつかんでいます。しかし、今後、産地ブランド牛がますます増えてきた場合、消費者もその実態が気になりだすのではないでしょうか。
そして、よく調べてみると、その地で生まれた牛ではない、血統、餌、飼育方法などはバラバラであることが判明し、興味を失ってしまうおそれがあります。こうした事態に陥らないうちに、何かしら説得力のある基準や統一性などの整備が産地ブランド牛において重要となるのではないでしょうか。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)