吉田カバン、圧倒的使いやすさの裏に、あらゆるシーンで気の遠くなるほど使用検証→改良
そうなると、カバンに求められるのは、カバン自体の軽さや防水性、そして男性用では収納箇所や間仕切りの多さだ。たとえば、吉田カバンのロングセラーブランドに「タンカー」シリーズがある。1983年に同社の看板ブランド「ポーター(PORTER)」の1シリーズとして発売されたカバンで、持ってみると大変軽い。もともと、米空軍が使用していたフライトジャケット「MA-1」をモチーフにした、中綿入りで弾力性に富む生地が使われている。現在は、シリーズ全体で年間約30万本を生産する大ベストセラーだ。
このカバンが人気となって以来、カバンの主流が変わったという声もある。たとえば、昭和時代は革カバンが人気だった。昔のカバンは、旅行や帰省など特別な時に使うことが多く、見た目やステータスを重視する一面もあったからだ。現在のカバンの多くは、通勤時など普段使いで利用し、革よりも軽い布製が主流になっている。
使い勝手としての「ストレスの少なさ」
先ほど「男性の場合は収納箇所の多さ」と記したのは、男性と女性では小物の入れ方が異なる場合も多いからだ。たとえば財布は、男性はカバンのポケットに収納する人が多いが、女性はカバンの中に平らに置き、上からハンカチなどを置く人もいる。
新社会人の場合は、学生時代とは荷物の中身も変わるだろう。そうした荷物の使い勝手の良さは人によって異なり、使ううちに気づくことも多いが、ストレスの少なさも考えたい。
「たとえば、一般的な金属製ファスナーは、向きによって開けにくくストレスがかかる時もあります。また、定期入れや名刺入れを収納するポケット口元のステッチ(縫い目)に、出し入れ時にひっかかることもある。混雑する駅で改札が近づいて定期入れを出そうとしてひっかかると、気持ちがあせると思います。それを避けるために当社のカバンには、ファスナーのエレメント(務歯)を一つひとつ研磨して滑りをよくし、開け閉めの際にストレスの少ない高級ファスナーのエクセラを使用したり、ポケットの口元にステッチをかけないタイプもあります。ただしステッチを省いても、強度の維持は意識しています」(同)
すべてのカバンを国内の職人が手づくりで行う吉田カバンは、新商品を製作する場合、同社の社員デザイナーが企画し、協力工房の熟練職人が裁断・製作を行い「ファーストサンプル」を仕上げる。これを実際の使い勝手の面から検証して「セカンドサンプル」や「サードサンプル」と改良していき、合格した製品が「新商品」として市場に出されるのが一般的だ。「サンプルテスト」と呼ばれる検証段階では、たとえば出張に行く社員にそのカバンを持って行ってもらうという。
「その場合も、たとえば電車移動する人を選び、実際の使い勝手を検証しています。もし、『車内で座った場合にヒザの上に置いたら、少し大きかった』という意見があれば、それを反映して細かく修正していくのです」(同)
モノを運ぶ道具としての「ストレス」は、自分の使い勝手だけでなく、混雑する車内で周囲の人に圧迫感を与えないかなども考えているようだ。