元国税局職員、さんきゅう倉田です。将来の夢は「天下り」です。
むかしむかし、まだ日没後のがさ入れが禁止されていた頃、定食屋さんに税務調査に行きました。その定食屋さんは、先代からおよそ40年続いていて、現在では2代目が腕を振るっています。有限会社として登記されており、都内で3店舗を展開、役員には先代の社長、社長の妻、2代目が名を連ねていました。
今回は、内観調査を行ってから実地調査に入ります。内観調査とは、事前に店舗などに行って、こっそり様子を探ることです。飲食店であれば、従業員、席数や客数、レジ、伝票処理などをチェックします。ぼくはお供をひとり引き連れ、平日のランチタイムに内観調査を実施しました。11時半の開店と同時に行くと目立ってしまいますが、12時を過ぎれば近隣のオフィスからおなかを空かせた会社員が群れをなしてやってくるでしょう。そこで我々は12時5分に入ることにしました。
店に入ると、活気のある「いらっしゃいませ」という声が響きます。40席ほどの店内には、厨房に2人、ホールに1人、従業員がおり、客は作業着を着た男性2人のみ。スーツの我々は圧倒的に目立ってしまいました。「しまった」と感じたときには、“あとのカーニバル”。奥の席に通され、厨房のスタッフにも顔を見られてしまいました。
席に着き、ぼくは日替わり定食、お供は生姜焼き定食を注文しました。この日の日替わりは、唐揚げにライスと半らーめんがついてきます。5分ほど待って提供された料理を食べた瞬間、思わず天を仰ぎました。
食の天使がやってきてぼくの味覚にいたずらをしたのか、あるいは口を閉じる瞬間にラスベガスで活躍する一流のマジシャンがナルトと産業廃棄物を入れ替えたのか、はたまた悪い夢なのか――。「どうして安月給で国民のために働いているのにこんなにマズいものを食べないといけないのだろう、どうしてあの厨房のコックはニコニコした顔でこの料理を出せるのだろう、どうしてお腹が減るのだろう、不条理だ!」と、厨房に向かって叫びたい気持ちを抑え、目立たないように完食しました。