SBIホールディングスの北尾吉孝社長が掲げた「第4のメガバンク構想」。複数の地域金融機関への出資を通じて地銀連合をつくるという趣旨で、すでに島根銀行、福島銀行、筑邦銀行、清水銀行と資本業務提携を結び、今後も地方銀行の再編が加速する見込みだ。
SBIが持つインターネットの技術や金融商品の販売ノウハウなどを生かして地銀の立て直しをするというが、この第4のメガバンク構想は奏功するのか。また、今後の地銀の展望はいかに。金融ジャーナリストの川口一晃氏に話を聞いた。
手を組まざるを得ない地銀の現状
その存在意義が問われ、持続性が危惧されている地銀の再編に、SBIが乗り出している。超低金利政策の長期化で利ざやが縮小し、人口減少と高齢化で資金需要も先細りしている地銀には“渡りに舟”の展開にも見える。
SBIの北尾社長は、この地銀再編プロジェクトを「第4のメガバンク構想」と銘打った。これは、地銀の収益力強化を目的に共同持ち株会社を設立し、日本全国の地銀を運営支援する体制を構築しようというものだ。具体的には、共同持ち株会社から支援先の地銀に対して、資産運用商品・金融サービスやシステムといったインフラなどを提供するのだという。
また、これと同時に行っているのが、個別の地銀への資本参加による事業運営支援だ。島根銀行や福島銀行との業務提携がそれにあたり、SBIの幅広い金融商品やサービスの提供やコストの削減に取り組んでいくという。
「いわゆる『メガバンク』を設立するのではなく、預かり資金量としての『メガ』という意味です。地銀同士のネットワークをつなげて、全国展開していこうという意図ですね。いずれにせよ、近年、地銀同士が手を組んでいかざるを得ないという状況は、関係者の誰もが意識していたことではあります」(川口氏)
SBIの構想は“守り”の取り組み?
ややイメージがしづらい感もあるが、我々の生活にはどのような影響があるのだろうか。
「地方に住んでいる人、地銀を利用している人にとっては生活が便利になるかもしれません。SBIが介入することで、それぞれの銀行がお付き合いしているグループから提供されるしかなかった資産運用商品の選択肢も広がります。また、地銀は人材が少ないので、業務提携によりサービスの向上にもつながりますね」(同)
さらに、自分の居住圏とは離れていても、地銀同士がネットワークでつながることで利便性が向上するはずだ、と川口氏は語る。ただ、この構想が成功するかどうかは未知数だ。
「今回の構想は、経営支援など弱者救済という印象が強いです。体力のない地銀同士でくっついても、SBIが見込んでいる収益や成果につながっていくかは微妙だと思います。また、大手が金融商品などをサポートするといった手法は新しいものではないので、どちらかといえば“守り”の取り組みという評価です」(同)
経営が苦しい地銀同士が結びついて同じような金融サービスを考えているのであれば、そこにプラスアルファは生まれないということだ。川口氏は、地銀に“攻め”の姿勢を期待する。
「昨年、金融庁は地銀が地域商社をつくりやすいように規制を緩和しました。これによって、地方自体が発展していくような目線で銀行が地方活性化に取り組むことが可能になりました。こうした、新たな活性化の形と地銀の収益の柱づくりに励んでいる地銀は『攻めた地銀』です。そういった、攻めている地銀同士が手を組み合うのが理想だと思いますね」(同)
首都圏の地銀が独自に連携する可能性も
SBIが音頭を取っている地銀改革だが、これをカンフル剤に多方面で同様の動きが発生する可能性もあるという。
「楽天やグーグルなどのネットのサービスに強いところが地方の金融機関に対して動き出す可能性もなくはないです。フェイス・トゥ・フェイスで築き上げた地銀の顧客、いわゆるネットが使えない層が手に入るのは、ネット企業にとって魅力かもしれないですね」(同)
さらに、関東圏の地銀が独自に連携していくことも考えられるという。
「現在、銀行預金は首都圏に集中しています。なぜなら、親世代の資産を都心に住む子どもたちが相続するケースが多いからです。そうした、首都圏、特に群馬、千葉、神奈川、埼玉の体力のある地銀が首都圏銀行のようなものをつくり、地方から集まってくる預金を自分たちが吸い上げるというような取り組みもあり得ると思います」(同)
地銀がなりふり構わぬ「生き残り策」を見いだしていけば、我々の生活への影響も大きくなる。
「金融サービスの効率化で収益率を上げていくのもひとつの手ですが、これからは金融を離れた新たなサービスを考えていかないと、地銀は生き残れないでしょう。SBIによる取り組みは、現状では金融業務の強化的な側面が強いですが、これから新たなサービスが展開されることを期待したいですね」(同)
もはや、地銀の再編は待ったなしの状況のようだ。
(文=沼澤典史/清談社)