リモートワーク時代、スーツの“新基準”…失敗しないためのビジネスファッションの新常識
誰も夢にも思わなかったコロナ禍が社会を変えている。終焉は見えず“ウィズコロナ”は長期戦となり世界を急変させている。世界中の「旅行産業」「外食産業」が大きな打撃を受けている。
アパレル産業も例外ではない。グローバル化したサプライチェーンが商品供給体制に多くの課題を残している。都市のロックダウンが売上を激減させ、アパレル産業のキャッシュフローが大打撃を受け、上場企業まで破綻した。今までのように毎シーズン、コレクションの大イベントを開催して情報発信することは、人の移動が制限されるなかでは難しく、新たな模索が続く。
そして在宅勤務が日常化し、人々のビジネススタイルも変化した。そこで今回は、各場面に最適な新ビジネススタイルのアイテム選びを解説する。
1.他人軸から自分が選ぶ自分軸へ
これまで仕事着とは、社内外の第三者から見られる印象を良くするためのものだった。男性では世界共通のビジネススーツがユニフォームとなっていたが、世界的に進むファッションのカジュアル化のなかで、コロナ禍は一気にビジネススタイルを変化させた。
まず、得意先を訪れて対面で打ち合わせる機会が激減した。社内でも会議はリモートに移行している。今まで意識していた第三者目線の他人軸は必要なくなりつつある。ゆえに自分が着てみたい服を自分が選ぶ。つまり選択の軸が他人軸から自分軸に確実に変化している。
2.スーツ、ジャケット着用機会減と選ぶべきアイテム
コロナ禍までは、誰もが毎朝、満員電車で決まった時間に出社し時間が過ぎると帰宅の途についていたが、その日常が消えた。東京メトロの利用運賃の30%が戻っていない。もちろん、今でも丸の内や新宿の高層ビル街には以前と同じスーツスタイルのビジネスマンはいる。しかし、ビジネススーツのみならずジャケットさえ着用する機会も減っている。最後にネクタイを結んだ日を思い出せない人も多いだろう。
ウエストが伸縮する素材のパンツ、肩にパッドの入っていないジャケットなどを着用すると、従来の堅苦しいルールから解放されたくなる。従来のスーツスタイルに変わって、一見スーツに見える伸縮機能素材のカジュアルなセットアップ(上着とパンツが自由に選べる販売方法)が主流になりつつある。肩にパッドが入ったテーラードタイプが古く見えだしている。ジャケットも同じく、肩にパッドの入らないアンコンストラクションタイプ(略してアンコン)が増えている。言い方は悪いが、襟の付いたシャツジャケットである。
特別な場面を除いては、これからも旧来型のスーツ、ジャケットの着用機会は少なくなるだろう。ゆえに、改めてスーツ、ジャケットを着用する場面では、違う愉しみが見つかりそうだ。洋服には和装と違い、年令でのルールはない。和装では、お婆ちゃんと孫が同じ振袖など着ることはありえないが、洋装ならお爺ちゃんと孫が同じネイビージャケットを着ても不思議ではなく、むしろ服装教育ができる。
筆者の作成した「タカギ式フォーマル度数表」から、イラストで選ぶべきアイテムを参考にしていただきたい。“これでなければならない”というものではなく、標準としてのアイテム選びである。ご自身のワードロープと比較していただければ、わかりやすく、無駄な買い物もなくなる。
3.自宅からのリモート会議の日常化
自宅では、パジャマから着替えてジャージの上下で一日を過ごす日もあるかもしれない。しかし、服装を着替えることで気分が変わるのは事実である。意識的に自宅内でも仕事の際は着替える習慣を心がけていただきたい。
リモート会議では、上半身しか見えないので上半身コーディネートとでも呼ぶ新語が生れた。確かにリモート会議なら上半身しか映らないが、会議には相手がいるし、複数人の場合もある。よくカジュアル化で誤解されるのだが、だらしなさとカジュアルは別軸であるし、清潔感は社会人としては当然のマナーである。各アイテムにもフォーマル度数と呼ぶ尺度が存在し、相性がある。Tシャツよりポロシャツ、ポロシャツよりワイシャツとフォーマル度数が上がり、相手に与える“キッチリ感”も上がってゆく。自分軸とはいえ、会議相手に相応しいフォーマル度数アイテムをリモートだからこそ選んでいただきたい。
まとめ
男性のビジネススタイルには、歴史的にも長いルールが存在する。カジュアル化は止まらない。イギリス紳士の日常着であったモーニングは現在、もっともフォーマルな装いとなっている。だがカジュアル化が進んでも、基本的なルールはビジネスマンの素養のひとつとして身につけておきたい。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)