5月26日、オリックスがマンション高圧一括受電事業を行っている子会社オリックス電力を売却することを決めたと報道された。設立からわずか7年での突然の撤退は、業界関係者を驚かせた。オリックス電力は首都圏を中心に約8万世帯、約800棟のマンションに高圧一括受電で配電する事業を展開し、2017年3月期の売上高は約70億円の、業界大手である。
売却を決めた理由については、「オリックスは単独では事業拡大が難しいと判断した」(5月26日付朝日新聞デジタル)、「競争が激しく、想定していた収益に届かないため売却の方針を決めた」(5月27日付日本経済新聞)と報じられている。オリックスとしては今後、同事業の拡大が難しく、想定していた収益を確保することが見通せないために撤退するとみられる。
オリックスは当時の宮内義彦会長が政府の規制改革会議議長を歴任するなど、規制改革の波に乗って各種事業を展開し、同事業もその一環であった。05年の50キロワット以上の高圧部分の電力自由化でマンション高圧一括受電事業が可能となり、オリックスも10年にオリックス電力を子会社として設立して参入し、一気に業界大手にまで事業を拡大した。
しかし、16年4月からの電力完全自由化(発電・小売の自由化)によって、同事業の展開は困難が予想される。消費者は自由に電力会社を選べるようになったが、マンション高圧一括受電を行っているマンションの住民は、それができないため、マンション側が高圧一括受電を導入することが難しくなるためだ。たとえば、すでにマンション住民が電力会社を選択している場合、高圧一括受電の導入に反対するため、導入の前提となる全戸の同意を得ることは難しくなるからだ。
すでに同事業から撤退した、にちほエコ株式会社(本社大阪市中央区)は、事業撤退の理由を次のように述べている。
「当社は、2007年11月より、マンション向けインフラコスト削減事業の一環として、高圧一括受電サービスを提供して参りましたが、2016年4月に予定されている電力小売全面自由化という市場環境の大きな変化が、今後、お客様に及ぼす影響について検討を重ねた結果、『先行きが見えない』、『選択の自由がなくなる』など、お客様の立場から見て懸念事項がある状態では、本事業の継続販売を行なうべきではないと判断いたしました」
「マンション一棟でまとめ買いすることで電気代を割安にする『高圧一括受電サービス』は、今回の自由化の影響を、より大きく受ける可能性があります。たとえば、自由化以降、居住者の一部が、各種サービスとの『セット割引』などに惹かれて個々に小売事業者と契約したいという要望があった場合、一括受電サービス提供契約を巡るトラブルが生じる可能性があります」
倒産も現実味
オリックスの撤退は、今後高圧一括受電事業者に対する融資や投資が厳しくなり、資金繰りにも影響が出る可能性を示している。そして、資本力のない同事業者の倒産も絵空事ではなくなってきたといえる。
仮に倒産が起これば、マンション内の変圧器は事業者の所有物であるために、債権者によって差押えされることになる。そうなればマンションの電力供給は債権者の手に委ねられることになり、債権者の意向によっては電力供給がストップすることもあり得る。それを避けるためには管理組合が変圧器を買い取り、自主管理しなければならず、巨額な資金と膨大な人手が必要になる。また、そのような事態となったマンションは資産価値が大幅に低下して、買い手もつかなくなる。
電力自由化の旗振り役である経済産業省は、上記のような悲惨な事態が起こらないよう、責任を持って対応すべきである。
(文=小倉正行/フリーライター)