「日本一、感じのいいタワマンへ。」
これは、東急目黒線「武蔵小山」駅徒歩1分の場所にできる、総戸数628戸のタワーマンションの広告で謳われているキャッチコピーである。売主は三井不動産レジデンシャルと旭化成不動産レジデンス。地権者住戸が137戸あるというから、再開発事業だろう。それはいい。
私が注目したのは「日本一、感じのいい」というキャッチコピーを採用したココロである。なぜ、わざわざ「感じのいい」と言わなければいけないのか。
日本人はタワーマンションが大好きである。否、日本人も韓国人も、中国人もタワーマンションが好きである。香港やシンガポール、あるいはドバイといったところでは、土地に限りがある。限りがある土地を有効に活用するために、タワーマンションを建設することは十分に意味がある。
しかし、日本は島国とはいえ活用されていない土地も多い。中国も人口が約13億とはいえ、大陸である。必ずしもタワーマンションを建設する必要はない。特に日本では住宅自体が約800万戸も余っているので、理論的にはタワーマンションも含めて新築住宅を1戸もつくる必要がないほどだ。なのに、毎年100万戸弱の新築住宅をつくっている。
実のところ、ヨーロッパには日本のタワーマンションに類する住宅はほとんどない。みなさんはパリやベルリンやローマを旅して、タワーマンションのような住宅を見かけたことがあるだろうか。イギリスのロンドンには少しだけある。私が知る限り、ここ10年で数棟のタワーマンションが建設された。
ところが、イギリスの皇位継承権筆頭であるチャールズ皇太子は、超高層ビルがとりわけお嫌いらしい。機会あるごとに超高層ビルについて「醜悪だ」という言辞をのたまう。そのことはイギリス国民には広く知れ渡っているらしい。
建築造形的に醜悪な存在
では、ヨーロッパ人はなぜタワーマンションの類を建設しないのか。
まず何よりも、見た目が醜悪だからだろう。この感覚が日本人にはない。私は、タワーマンションのことを「醜悪だ」と評する日本人をほとんど知らない。私は建築造形的に醜悪な存在だと考えている。そういうことをさまざまな機会に主張している。
ただし、日本も香港やシンガポールほどではないにしろ、土地には限りがある。便利な場所に多くの住宅をつくるためには、タワーマンションのような住宅形式は必要である。だから「必要悪」だと考えている。当然、郊外にはタワーマンションなどは必要ない。
ところが、この国では山形県の田んぼに囲まれた場所にも、都心から電車で50分くらいかかる千葉県や埼玉県の郊外にも、タワーマンションが建設され、分譲されている。地方都市でも、駅前エリアにタワーマンションが開発分譲されることが多い。
そして、私から見るとかなり不可思議なことに、まわりの住宅よりも面積割合にして1.5倍以上は高い値段にもかかわらず、それらのタワーマンションが売れているのだ。「ホワイ・ジャパニーズ・ピープル!」と、大きな声で叫びたい。しかし、そんな私は日本人の中で圧倒的に少数派だ――、と今までは考えていた。
『マンションは日本人を幸せにするか』 「管理利権」を貪るモンスター理事長、10年で半額になる郊外新築物件、高層階をありがたがる国民性と健康問題、「サラリーマン大家」の成功率は1割未満?…“不都合な真実”には誰も気がつかない。そもそも日本人はなぜマンションに住み始めたのか、分譲マンションの区分所有という権利形態に潜むリスク、など誰も気付かなかった「そもそも論」から、業界の儲けのカラクリ、さらには未来のマンションの風景まで、この道三〇年の住宅ジャーナリストが、住まう人たちを幸せに導くマンションのあり方を探る。