店舗営業→20時以降はデリバリー営業…死に物狂いの飲食店、潰れれば食の生産者も潰れる
1月8日、政府は新型コロナウイルス対策として緊急事態宣言を1都3県に発した。医療機関のひっ迫を理由のひとつにしているが、外食業界だけに規制をかけたことが今後の感染拡大の抑止につながるのだろうか。宣言が発出されるたびに消費者の大好きな外食の機会が失われ、産業自体が棄損していくことに大きな危機感を感じる。なぜなら、外食を守ることは生産者を守り、ひいては食文化全体を守ることにつながるからである。
外食業界は食品を扱うため、専任の食品衛生管理者を配置しなければいけない。そして食中毒の予防を含め、さまざまな対応を営業する限り実施している。またHACCPを取得した施設であればなおさら厳しい管理を行っている。
緊急事態宣言の発出以前から、すでに飲食店はソーシャルディスタンスの確保や手指消毒の実施などの感染予防の措置はとっており、多くの飲食店が「感染防止徹底宣言ステッカー」を店頭に掲出している。
緊急事態宣言発出直前の1月5日に、筆者はチェーン系のファミリーレストランを訪問した。座席の間隔を「これでもか」というくらい確保し、入店時に店員から手指の消毒を促された。
ファミレス単体のメニューだけでは集客につながらないと判断したこのチェーンは、コラボ型店舗への改装を急ぎ足で進めている。消費者にとっても、ひとつの店舗でメニューの選択肢が増えることは喜ばしいことだ。テーブル上の注文用タブレットにも、トップページには自店舗のオリジナルメニューではなく、コラボ店舗のから揚げが掲載されていた。通常メニューであれば、わざわざ店舗に足を運ぶ理由は少なくなっている。
提供する商品の選択肢が増えることは、イートイン客に対してだけでなく、テイクアウトやデリバリーの利用客にとっても利便性が高まる。店舗の入っているビルの1階にデリバリー用バイクの置き場がある。3台の駐車スペースであるが、入店時には1台しか残っていなかった。意外に稼働していることがうかがえる。
このチェーンは自社デリバリーの募集チラシも店頭に掲出している。コロナ禍におけるデリバリー強化策がうまく進捗している様子だ。一方で、ファミリーレストラン業態におけるテイクアウト戦略はなかなか進んでいない様子だ。デリバリーこそ検討しているものの、中食需要はコンビニやスーパーなど競争相手が多いからだ。そのためか、テーブル上にはテイクアウトならぬ「持ち帰り」を推奨するチラシが置いてあった。この「持ち帰り」は食べ残した料理を自己責任で持ち帰るという仕組みだ。食べ残しを顧客が持ち帰ること関しては、店側は保健所などに特段の手続きを行う必要はない。デリバリーも推進しているため容器や包装資材に困ることもない。店舗側、消費者共に利便性の高い仕組みのひとつといえるだろう。
自社デリバリーを強化
自社デリバリーを強化するチェーンが増えている裏には、デリバリー専業者の乱立とサービス低下によるところが大きい。最大手のウーバーイーツは、良い評判より悪い評判のほうが世間をにぎわせている。労働条件が原因のひとつではないかと思う。同社は完全出来高払いという「1件当たり単価」であり、時間単位での委託費ではない。そのため同社の配達員は、需要が見込める店舗前に縦列待機し、荷物を受けとるや否や信号を守らず、歩道をかき分けて突っ走るスタイルに陥るのではないか、と想定する。
一方、自社デリバリーは時間給の勤務形態であり、さらに自社商品を運ぶという使命と責任を担っている。他社デリバリーに同じレベルのプライドを求めてはいけないのだろうが、そうはいっても荷物(食品)を運ぶプロとしての質は最低限度担保してほしい。
一部の配達員の行いが全体の質や評判を落としていることは、とても残念なことである。コロナ禍において社会的インフラとなりつつあるデリバリー業務を担う一社としてのプライドを矜持してほしいものだ。すべての他社デリバリーの質が担保されていないということではない。配達員個々の資質に加えて、デリバリーを担う会社の教育システムや評価システムに違いがあることが原因ではないかと感じている。
時短要請をうけながらも20時までは店内飲食、その後はテイクアウトやデリバリー対応で営業している飲食店も存在する。もっともアルコール類を提供する店舗は、19時までが酒類の提供時間となる。
原価率の低いアルコール類の販売が19時までとなったことは、飲食店にとって痛手となった。テレワークを実施していない会社の従業員も、17時や18時に仕事を終えてちょっと一杯たしなむには、時間も足りないことだろう。店内飲食、イートインの時間が制限されるなかで、消費者はどのように行動することがベターなのだろうか。
コロナ禍に苦しむ飲食店を支援するためにも、私はあえてテイクアウトの活用をおすすめしたい。可能であれば予約をしないで、または電話でこれから行くと伝えて店頭で待ってほしい。多くのファミリーレストランは、店内飲食の閉店後もデリバリーやテイクアウトに対応している。テイクアウトを勧める理由は、その場で調理されたアツアツの料理を持ち帰ることができるからだ。イートインの温度に近い、ファミリーレストランの味わいをより自宅で再現することができると思う。デリバリーも選択肢のひとつだが、配達員が出払っていると届けるのに時間を要し、料理の温度が下がる可能性がある。
外食を守る=日本の食文化を守る
外食産業は、日本の食文化を支える重要な使命を担っている。日本フードサービス協会が公表している外食産業の市場規模を見ると、令和元年は26兆439億円となっている。うち、飲食店の市場規模は14兆5441億円。飲食店に含まれるのはファミリーレストランや一般食堂、立ち食いを含むそば・うどん店、回転寿司を含む寿司店、そしてファストフードのハンバーガー店、お好み焼き店などだ。その構成比は55.8%を占める。これら飲食店業態の営業が滞ることは、当然ながら生産者にも大きな影響が及ぶことになる。
筆者は消費者として多くの店舗を回っているが、ほとんどの飲食店は「感染防止徹底宣言ステッカー」を掲出している。各店舗で可能な限り感染予防に努めている。なかには本当に対策をとっているのか疑わしい飲食店も存在するが、そうした店は消費者の判断で利用を控えればよい。わざわざネット上でそうした飲食店を糾弾する必要はない。正しい対策をとり安全安心に取り組んでいる店舗を適切に利用すること。それが飲食店を支えるために消費者がとるべき行動ではないかと私は考える。
2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」は、単なる食べ物としてだけでなく、日本人の伝統的な食文化として認定された。氷山でたとえるならば、飲食店は海上に表出している部分にあたり、海の中に隠れた大部分が、それを支える生産者や加工業者となる。コロナ禍においても食文化を守るためには、飲食店を海に沈めるのではなく、生産者も含めて支える仕組みや行動が求められるのではないだろうか。そして、こうした考え方や行動様式は、持続可能な社会・経済づくりの理念とも合致するものではないだろうか。
政策をつくることは専門の人たちに任せるとして、外食を守り、支え、楽しむために、消費者が必要な知識や情報を発信し伝えていくことが、フードアナリストとして私の役割だと思う。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)