民事再生手続き中のエアバッグメーカーのタカタは、米自動車部品メーカー、キー・セイフティー・システムズ(KSS)とスポンサー交渉を進めている。
タカタが東京地裁に民事再生法の適用を申請した6月26日、KSSはタカタから1740億円で主要事業を買い取り、再建を支援することで基本合意した。当初は、数週間のうちに正式契約を結ぶとしていたが、交渉が長引いている。大口債権者である約15社の自動車メーカーとの協議が難航しているからだ。
日米の運輸当局が対象にしたタカタ製の欠陥エアバッグのリコール(回収・無償修理)費用総額は1兆4000億円を超えた。タカタ製の採用の中止を決めているメーカーもある。今後、KSSがスポンサーとなる新タカタに発注するかどうかは不明だ。
交渉の最中の8月24日、KSSのジェイソン・ルオ社長が辞任した。米フォード・モーターに移籍して、同社の中国法人の会長兼CEO(最高経営責任者)に就任した。KSSとタカタに見切りをつけ、フォードに乗り換えたとの見方がでている。
KSSは1916年創業の老舗部品メーカーで、タカタ同様に自動車の安全部品が主力だ。2016年2月、中国の寧波均勝電子(浙江省)に1020億円で買収された。つまり、KSSに買収されればタカタは中国企業の傘下に組み込まれることになる。
寧波均勝電子は04年創業で中国でも新興企業の部類に入る。M&A(合併・買収)で急成長を遂げてきた。タカタのエアバッグ事業を1750億円で買収するのは、寧波均勝電子にとって大胆な買収だ。
16年のエアバッグの世界シェアは、タカタ製のリコール問題からタカタ離れが進み、オートリブ(スゥエーデン)が34.2%と独走した。一方、タカタは17.2%と2割を大きく割り込んだ。KSSは8.4%で第4位だった。タカタのエアバッグ事業の買収により、単純計算で25.6%に高まる。KSSはドイツのZFフリードリヒスハーフェンを抜き世界第2位のエアバッグメーカーに躍り出て、日本の自動車メーカーへの売り込みを積極的に行う予定だ。
圏外だった寧波均勝電子は一気に、世界のエアバッグのトッププレーヤーに浮上する。中国のメディアは「ついにアリ(均勝)が、ゾウ(タカタ)を飲んでしまった」と驚きをもって伝えた。
しかし、自動車メーカーから今後も引き続きエアバッグを発注してもらえなければ、世界2位の野望は絵に描いた餅で終わる。KSSはルオ社長の後任として9月1日付で、寧波均勝電子幹部のユーシン・タン氏が就任した。彼がタカタや自動車メーカーとの交渉に当たる。