3社は、新造機を次々に購入して単に供給を拡大しただけではない。世界標準を大きく上回る良質の機内サービスを提供、「航空業界のオスカー賞」とも呼ばれる英スカイトラックス社の「世界航空会社賞」の上位にいつも名を連ねる常連だ。17年では、カタールが第1位、エミレーツが第4位、エティハドが第8位と、いずれもトップ10以内に選ばれた。ちなみに第2位にはシンガポール航空、第3位には全日空が顔を出す。
中東3社の成長が鈍化し始めた
ところが、中東3社をめぐる環境が最近変化している。3社の拡大テンポが、今までの毎年2桁成長から一変、今年に入って半分以下(+4%)に低下してしまった。そして6月にはアラブ4カ国が突然カタールと断交したため、さらに低下するかもしれない。域内紛争が長引けば、17年は初めて前年割れ(▲2%)になる可能性だってある。カタール航空では、18路線に運休ないし大きな影響が発生した。
下図「2017Qケース」は、カタール断交が9月以降も継続した場合の想定。折れ線グラフの赤色部分が示すとおり、断交が長引けば前年比 ▲2%になると予測されている。
供給拡大テンポの鈍化と共に至近の収支も悪化。前掲<図表-1>に示した通り、エミレーツは70%減益、エティハドは燃油ヘッジ損や投資損などの減損会計で大幅欠損を計上した。決算を開示していないカタールでも、2期連続で営業欠損に陥ったといわれる。もともと3社の収支は、隠れた政府の補助金や関連企業などからの利益の補填が存在し、著しく透明性に欠ける。しかし経営アナリストなど外部機関の分析を見れば、減益ないし欠損の拡大は明らかだ。
では、なぜ中東3社の成長に急ブレーキがかかったのか。複雑な域内紛争の話を別にすれば、その理由は原油価格にあるといえるだろう。原油価格の下落【註2】により石油業界の景気が低迷、オイル関連のビジネス旅客が減少、その需要を多く摘み取っていた中東3社の収入が真っ先に減少した。航空会社では、旅客の20%のハイイールドのビジネス旅客が、利益の80%を生み出すといわれているくらいだから、この旅客の減少は航空会社の経営に甚大な影響を与えることなる。
【註2】WTI原油価格は、至近のピークである13年平均97.93ドル/バレルから15年に 49.75同に値を下げ、17年上半期に至るも50.07同とほとんど反転していない。