「混雑」というと、特定の空間内にいる人の多さ、すなわち「人混み」を思い浮かべる方が多いと思います。人混みは、必要とする空間が、大勢の人がいることによって確保されない経験的状態と定義されます。
しかし、心理学では混雑が人混みだけでなく、「物理的な空間の狭さ(空間的込み具合)」を含めた2つの次元で構成され、後者が前者の感じ方の規定要因であると捉えています【註1、註2、註3】。人混みが消費者行動に与える影響については、すでに2017年1月17日付本連載記事で取り上げているので、今回はこの空間的狭さに着目したいと思います。
消費者による店の空間的狭さの評価は、広狭といった店内の特性だけでなく、店の周辺状況も含みます。広々とした大通り沿いにある店、狭い道沿いや路地裏にある店、階段を下りたところにある店など、周辺環境が空間的狭さの全体的評価に影響するからです。一般に、そうした空間的狭さは、消費者の店の選択には影響しても、店が提供する商品の選択には無関係と思われがちです。しかし、消費者行動研究ではその関係が存在することを明らかにしていますので、以下では、それらを紹介したいと思います。
狭い空間と選択する種類
まず、空間的狭さは選択する商品の種類の多さに影響することが明らかにされています。リバヴらとチューは、ある作業をしてもらった後に、お礼として好きなスナック菓子を選んでもらうという実験を行いました【註4】。スナックはスニッカーズやキットカットなどの6種類のスナックバーで、それぞれ10個ずつ別々のボウルに入れられ、通路の先にあるテーブルの上に置かれました。
この通路は、室内につい立を使ってつくられた長さ約4.5mのもので、狭い通路(約1m)と広い通路(約2m)を用意し、被検者にはどちらかの通路を通ってもらいました。その結果、狭い通路を通った被験者のほうが、広い通路を通った被験者よりも、選択したスナックバーの種類が多くなったことが示されました。また、通路を狭く感じた被験者ほど、選択した種類が多くなったことも報告されています。
リバヴらはさらに、NPOへの寄付を対象とした実験も行い、狭い通路を通った被験者のほうが、無名のNPOに対する寄付の意向や寄付額が高くなったことを明らかにしています。これは、狭い空間を通ったことにより、未知のモノへの関心や選好が高まったことを示しています。