ではなぜ、狭い空間にいると、より多くの種類や無名のモノを選びたくなるのでしょうか。それは、2017年4月4日付本連載記事で紹介した「リアクタンス理論」で説明できます。リアクタンス理論は、人は自分の行動の自由が抑制される状況に置かれると、心理的抵抗感(リアクタンス)を覚え、抑制された自由を回復しようとする現象を説明します。狭い通路は窮屈で自由が抑制されたように感じさせるので、そこから心理的抵抗感が生じ、自由を回復するためにいろいろなモノを自由に選びたいという欲求が強くなったということになります。
これらの結果を踏まえると、狭い店では商品の品揃えを豊富にすると顧客の満足度を高められること、また、新製品や無名の商品を販売する場合には、狭い通路沿いの棚や狭いスペースに陳列すると、顧客の関心を惹きやすくなることが予想されます。
狭い空間と衝動行動
空間的狭さは、衝動買いにも影響することが明らかにされています。人は通常、狭い室内にいるときには、他者、壁、モノなどにぶつからないよう周りに注意を払いながら自分の動作をコントロールしようとします。そうすることで「何かにぶつかる」という不快な出来事を避けられるからです。これは、制約のある空間にいることによって、自己統制力が上昇することを意味します。
このように自己統制力が高い状態にある場合、この統制力が無関係の別の行動にも波及することがあります。心理学ではこの現象を「抑制的スピルオーバー効果(inhibitory spillover effect)」と呼んでいます【註5】。
シュウとアルバラシンはこの効果に着目し、狭い空間にいるとスイーツなどの快楽的消費の誘惑に強くなることを分析しています【註6】。実験では窓のない2つの部屋、すなわち大部屋(約14平方メートル)と小部屋(約2.8平方メートル)を用意し、被験者をどちらかの部屋に案内しました。そして室内では、ブラインドテストと称し、高カロリーで砂糖の含有量が多いチョコボールの味見をしてもらいました。チョコボールはボウルの中に20個入れられており、好きなだけ食べることができます。
その結果、大部屋にいた被験者のほうが、小部屋の被験者よりも食べた量が多くなったことが示されました。小部屋にいた被験者は自己統制力が高まり、それがチョコボールの消費という衝動行動にも波及し、消費量を抑えたということになります。
このことから窮屈に感じさせる店では、健康やダイエットをアピールした商品や健康的なメニューを提供すると、それらに対する顧客の消費意欲が高くなるので、満足度も高まることが予想されます。