ニューヨーク支店の巨額損失事件で米国から完全撤退
95年7月、大和銀行ニューヨーク支店で巨額損失が発覚した。ニューヨーク支店のトレーダーで証券売買の管理責任者だった井口俊英氏が大和銀行の上層部に手紙を送り告白したことから明らかになった。巨額損失を10年にわたって隠蔽し、損失の穴埋めのために保有する有価証券を簿外で、無断売却していた。損失は米国政府への罰金の支払いを含めて14億4000万ドル(当時の為替レートで1440億円)に膨らんだ。
突然の知らせに、銀行上層部は事件が公にならないよう隠蔽し、発覚の先送りを図った。大蔵省(当時)には報告したが、米連邦準備制度理事会(FRB)に報告したのは、その6週間後。監督当局としてメンツをつぶされた格好のFRBは、大和銀行に3年間の業務停止処分を科し、米国から追放した。大蔵省に報告しておけば事足りると考えた国際感覚のなさが致命傷となった。安部川氏は責任を取って会長を辞任、公職からも退いた。
米検察当局は損失隠蔽の工作をしたとして、銀行や井口トレーダーの元上司らを共同謀議罪で起訴。大和銀行は司法取引に応じ、356億円という巨額の罰金を支払うことで同意した。
株主代表訴訟も起きた。大阪地裁は安部川氏や藤田彬元頭取ら旧経営陣11人に対し、同行へ総額829億円の返還を命じた。被告らは2億5000万円を支払うことで和解した。
安部川氏は頭取時代の89年、英ロイズ銀行の米国支店網を買収して国際化を進めた。だが、米国からの完全撤退に追い込まれたため、グローバル銀行になる野望は打ち砕かれた。
大和銀行は、その後、あさひ銀行と統合してりそな銀行となったが、不良債権の重圧に押し潰され2003年、2兆円規模の公的資金が注入され特別支援行第1号となり、事実上、国有化された。りそな銀行の“死亡宣告”は、同年6月10日に行われた。りそなホールディングスは最大で3兆1280億円の公的資金を抱えていた。
(文=編集部)