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シェール革命のツケでガス会社も倒産

シェールガス、米社倒産で早くもバブル崩壊?電気料金値上げ抑制期待にも暗雲か

文=編集部
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(「Thinkstock」より)
 シェールガス・バブルの終わりが始まった。米シェールガス会社が倒産した。

 日本経済新聞電子版(4月2日付)は「米石油・天然ガス開発会社のGMXリソ-シズは1日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を、オクラホマ州の裁判所に申請したと発表した。米国では新型天然ガス『シェールガス』の生産量が急増した結果、ガス価格が低迷。資金繰りに行き詰まった。昨年12月時点の負債総額は4億5900万ドル(約427億円)」と報じた。

 米国は近年、「シェール革命」に沸いた。シェールガスとは地下2000~3000メートルにある泥土が堆積したシェール(頁岩=けつがん)と呼ばれる硬い岩盤層に含まれる天然ガスのことで、採掘技術が確立されたことで、生産が本格化した。米国の可採埋蔵量はサウジアラビアの3倍を優に超えるとされる。シェール革命によって化学や石油・ガス産業が牽引して米国経済を飛躍的に発展させ国際競争力を取り戻す、と声高に言われてきた。

 かくして、かつてのゴールドラッシュさながらにシェールガスの開発ラッシュが起きた。シェールガスの大量生産によって天然ガス価格の急激な低下を引き起こした。米国内の天然ガス価格は2008年には100万BTU(英国熱量単位)当たり7~8ドルだったものが、12年には3ドルを割った。

 シェールガス価格の下落は化学産業や電気・ガスなどの公益事業の収益を好転させた。シェールガス革命がニューヨーク株式市場の株価上昇を支える一因となっている。

 しかし、ガス価格の下落によって石油開発業者は窮地に立たされた。売り上げは減って、借金の山だけが残ってしまった。資金力のない業者の倒産を皮切りに、シェールガス・バブルは弾けると専門家たちは考えていた。GMXリソ-シズの倒産はシェールガス・バブルの終わりの始まりを示す、不吉な兆候なのである。

 タイム・ラグのある日本ではシェールガス・バブルが花盛りだ。大丈夫なのか。

 安倍晋三首相とオバマ大統領との日米首脳会談で、シェールガスの対日輸出解禁についてオバマ大統領が前向きな姿勢をみせたことから期待が高まった。安価なシェールガスの輸入が実現すれば、電気料金値上げ圧力が弱まり、国内産業の燃料費の抑制にもつながる。原子力発電所の運転停止で火力発電所の燃料用として液化天然ガス(LNG)の輸入が急増し、12年1年間で輸入額は6兆円を上回った。これが過去最大の貿易赤字の大きな要因となった。

 日本政策投資銀行はシェールガスの輸入が実現すれば、現在の割高なLNGの価格交渉で日本にとって不利な契約が見直される可能性がある、とみている。最大のネックは原油価格に連動した契約になっている点だ。そうなれば日本のエネルギー調達費用は2020年の時点で現在の水準より最大15.2%削減できると試算している。

 世界最大のLNG輸入国の日本の調達価格は、少し下がったとはいえ15ドル程度。シェールガスは米国では、我が国のLNGの輸入価格のおよそ5分の1で取引されてきた。米国からの輸入が可能になればタンカーで日本に運ぶ輸送経費を含め8~9ドル程度に抑制できる。

 米国産シェールガスの輸入は、政投銀が予測したようにLNGの輸入価格の引き下げ交渉の有力なカードになる。エネルギー調達費の高騰に歯止めをかけ、電気料金の抑制につながると期待されているのだ。

 早速シェールガスの輸出解禁に向けて動き出した。東京電力は、東京湾に臨む富津火力発電所(千葉県富津市)でシェールガス解禁を見込んで今後10年間で総額400億円を投じ、LNGタンクを増設する計画を進めている。東電は調達するLNGの半分に相当する約1000万トンを安価なシェールガスに置き換える方針。すでに三井物産などと輸出解禁が見込まれる2017年以降にシェールガスを輸入する契約を結んでいる。

 東京株式市場ではシェールガス関連銘柄として小型材料株が注目を集めた。石油、LPG等のタンク専業メーカーの石井鐵工所(東京都中央区)、石油・天然ガスの探鉱の段階から掘削、仕上げ、生産を経て出荷に至るまで使用される一連の機器や技術を提供している極東貿易(東京都千代田区)などが買われた。

 だが、シェールガスにバラ色の夢は描かない方がいい。シェールガスが安いガスであり続ける保証はないからだ。

 英国の政治学者、ナフィーズ・モサデク・アーメド氏(ブライトン開発政策研究所所長)の『大いなるペテン、シェールガス』と題する論文が反響を呼んだ。「ル・モンド ディプロマティーク」日本語・電子版(2013年3月号)で読むことができる。

 多くの専門家(地質学者、弁護士、市場アナリスト)たちが抱いていた「故意に、不法なまでに採掘生産量と埋蔵量を多く見積もっている」との疑惑を検証した内容になっている。シェール革命は短期間に瞬発力を発揮したが急激な天然ガスの価格低下を引き起こし、世界の大手石油会社に莫大な損害が生じた、と結論づけた。

 大手石油会社の2~3社が倒産してシェールガス事業から撤退。「シェールガス価格は高くなり、高騰すらして落ち着くだろう」という専門家の最悪のシナリオを伝えている。

 シェールガス会社が倒産するという予測は、GMXリソ-シズの破産で的中した。シェールガス・バブルが弾け、次にくるのは天然価格ガス価格の上昇だ。

 LNGとして日本に輸入する場合、液化と輸送費でそれぞれ3ドル(合計6ドル)程度のコストがかかる。米国内の天然ガス価格が8ドル超まで上昇すれば、調達コストは14ドルを超える。現在15ドル程度の原油連動価格との価格差がなくなる。シェールガスの輸入でうまくいくというのは幻想でしかないのだ。

 そもそも日本のLNG調達戦略の最大の問題は、電力・ガス会社が個別に小口の長期契約を結んできた点にある。エネルギー安保のイロハが判っていない。まずは官民挙げて産出国とのLNG価格の是正交渉をやるべきだ。シェールガスはその次でいい。

 シェールガスの日本向け輸出の解禁を前に、ガスの価格が上がっている。今年に入って、NYの先物相場は3割上昇し、さらに、先高期待が強い。

 4月18日にNYの先物相場が100万BTU当たり4.4ドル台と、1年9カ月ぶりの高値をつけた。昨春の安値の2.4ドルの2倍の水準になった。

 安価なシェールガスの登場で採算が悪化した企業がガスの生産を縮小しているという構造的な要因もある。米金融大手、ゴールドマン・サックスは今年のガスの平均価格の見通しを、従来予想より17%引き上げ、100万BTUで4.4ドルとしたのが価格上昇の引き金になったとの見方もある。

 輸出許可を申請している米LNG事業のうち、日本企業が加わっているのは中部電力・大阪ガスが参画するものなど3つ。100万BTU当たり7ドルにまで上昇すると完全に割安感はなくなる。遅くても5月にはシェールガスの対日輸出が解禁される見込みだが、バラ色の夢は急激に萎んできた。

電力業界の姿勢にも問題あり

 経済産業省は関西電力と九州電力の電気料金の値上げの審査で、「2015年度以降のシェールガス購入による燃料費の削減」を求めた。

 これに対して電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は「現実に日本に輸入されるのは17年以降。努力の範囲を超える」と反論した。シェールガスの輸入を米国以外のLNG産出国との価格交渉に利用することについても「相手があることだ」という消極的な姿勢だ。

 電気料金の算定基準が原価主義(エネルギー原価などに電力会社の諸経費をオンさせたもの)である限り、電力各社は、まったく経営努力をしないことが明々白々だ。電気料金の原価主義を止めること。LNGの輸入契約を原油連動方式でなくすこと。これをやらない限り、電力・ガス業界の経営トップの意識は変わらない。電力・ガス会社のトップがこのままなら、シェールガス革命など絵に描いたモチになる。

 日本のシェールガス革命は早くも八方塞がりである。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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