日本は2017年に、米国からのシェールガス輸入を始めるが、日本におけるシェールガスビジネスに布石を打ったのは、丸紅社長の國分文也氏である。國分氏は1975年4月に丸紅に入社以来、石油部門一筋に歩き、米国法人社長時代に同ビジネスに目を付けた。2010年にノルウェーのBWガスと共同で、シェールガスを運搬する上で不可欠となるLNG船を8隻保有し、LNG船の運航事業に参入した。11年にはカナダのティーケイと共同で世界の海運最大手、A.P.モラー・マークス(デンマーク)からLNG船を8隻購入した。國分氏が丸紅社長に就任する2年前の11年には、同社はLNG船を合計16隻保有するところとなり、商船三井や日本郵船に次ぐ規模となった。
國分氏は13年4月1日、丸紅社長に就任。同15日、韓国のSKシッピングと共同で、トタル(フランス)の英国法人と新造LNG船2隻の長期傭船契約を結んだ。シェールガス輸送用として最長30年間、LNG船を貸し出す。また、韓国の三星重工にLNG船2隻を発注した。新しく建造するLNG船は幅49メートルで、15年に拡張されるパナマ運河を航行できるギリギリの大きさの船だ。20年をメドにLNG船を20~30隻に増やし、市場拡大が見込まれるシェールガスビジネスへの布石を着々と打っている。
國分氏は社長に就任して間もない13年4月17日、ロシアの首都・モスクワに飛び、ロシア国営石油最大手、ロスネフチ本社でイーゴリ・セチン社長と極東ロシアで検討中のLNG基地建設の覚書に調印した。また、6月21日、ロスネフチは丸紅と日本の企業連合、サハリン石油ガス開発(SODECO)との間でLNGの供給数量について合意した。ロスネフチは19年から丸紅に年間125万トン、SODECOに同100万トンを供給する。
SODECOは経済産業省が筆頭株主(50%出資)で、伊藤忠商事(18%)、JAPEX(石油資源開発、14%)、丸紅(12%)が出資している官民一体のエネルギー企業だ。13年4月に丸紅がロスネフチと提携した際、SODECOは「抜け駆けだ」と激怒したが、SODECOもLNGの供給を受けることができ、経産省はメンツを潰さずに済んだ。経産省の神経を逆なでした格好となった國分氏は、「可能性のあるプロジェクトに手を打つことが国益につながる。積極的にリスクを取りにいく」と気にする素振りはない。
●最終利益3000億円への挑戦
そんなLNG事業に注力する丸紅であるが、同事業に一辺倒というわけではない。同社は13年5月に新たな中期経営計画(中計)「グローバル チャレンジ2015」を発表した。13年3月期連結決算で過去最高となる最終利益2057億円を達成したが、総合商社の中では5位の規模。さらに上位を目指し「16年3月期に最終利益を2500~3000億円に引き上げたい」と高い目標を掲げ、将来の成長に向け3年間で1兆1000億円の投資を実施する。
投資の内訳は資源関連が4割、機械と食糧・生活産業6割とバランスを重視した。国内では原発稼動停止を受けてLNGの需要が急増しているが、資源の国際価格は大きく振れやすく、為替にも左右される。資源価格の下落など逆風下でも年間最終利益ベースで最低2500億円を稼ぐ体制を早急に確立する。その上で、安定して同3000億円を稼げる体制を確立するために、投資が資源一辺倒にならないよう配慮されたのだ。