なぜか? 一族郎党にメシを食わせるためだった。井川家は多産系だ。創業者の井川伊勢吉氏には4人の弟がいたが、全員関連会社の社長を務めた。さらに6人の息子たちも全員、関連会社の社長になった。
伊勢吉氏は6男2女の子だくさんで、長男が高雄氏である。息子や娘婿は、全員、大王の役員か関連会社の社長になった。次男の2人の息子は、関連会社の社長と取締役だ。本家である高雄氏の長男がカジノにはまった意高前会長で、次男がカーレーサーでもある取締役の高博氏(46)。一族郎党は、全員が大王にぶら下がってメシを食べているという構図だ。
関連会社が大王本体から切り離されたら、一族は食い扶持を失う。本家には一族郎党を守る責務がある。「意高個人の事件を、なぜ井川家の問題にするのか」。だから高雄顧問は、大王の現経営陣を公の場で激しく批判し始めた。
経営側と創業家の壮絶バトルの第1ラウンドは、昨年10月。意高前会長が子会社から借りた借金の未返済額は59億3000万円。その返済の意思を示すため、意高、高雄の両氏が保有している関連会社の株券を大王に預けた。その株券が入っているカバンを高博氏が佐光社長から奪い返そうとして内ゲバとなった。
第2ラウンドは今年1月。経営側が創業家側の子会社を次々と奪還していった。新聞用紙・段ボール原紙を製造するいわき大王製紙(福島県いわき市、年商208億円)の株式は、大王が25.0%、高雄氏が24.0%、高博氏(事件後に意高氏より譲り受けたものと思われる)が12.0%を保有していた。大王はグループ内の持ち合い先から株を譲り受け、持ち株比率を47.0%に高め、間接保有を含め51.0%を所有するかたちにして連結子会社に戻した。
第3ラウンドは今年2月。創業家側は主力工場の完全支配に動く。大人用の紙おむつ製造のエリエールペーパーテック(栃木県さくら市、同242億円)、乳児用紙おむつ製造のダイオーペーパーコンバーティング(愛媛県四国中央市、同287億円)、ティッシュペーパー製造の大宮製紙(静岡県富士宮市、同245億円)など8社で臨時株主総会を開催。うち7社で大王から出向していた取締役の首を切り、創業家側が送り込んだ取締役が新たに選ばれた。臨時株主総会で大王側が勝ったのは、いわき大王製紙、1社だけだった。
大王が支配する子会社は19社、創業家は18社を支配下に置いた。大王は主力工場の経営権を次々と奪われた。今後の伸びが期待できる紙おむつや生理用品といった家庭紙の工場は、すべて創業家がコントロールすることとなった。