新型コロナウイルス禍が深刻化するなか、長年にわたってステータスシンボルとして保有してきた本社ビルを売却する動きが相次いでいる。リクルートホールディングス(HD)は、登記上の本社となっている「リクルートGINZA8ビル」(東京・銀座)を、みずほフィナンシャルグループ系の不動産大手ヒューリックに売却した。売却日は2月5日。売却額は非公表だが、200億円程度とみられている。
ビルはJR新橋駅近くの銀座8丁目に立地。1981年竣工で地下3階、地上11階建て。ガラス張りの目を引く外観でリクルートのシンボルとして知られる。08年、本社機能をグラントウキョウサウスタワー(東京・丸の内)に移転した後も登記上の本社所在地となっていた。現在はリクルートHD傘下の人材派遣子会社リクルートスタッフィングなどが入居しているが、ビル売却後も賃貸して入居を続ける。
企業などが保有する不動産を売却と同時に賃貸借する取引をセール&リースバックと呼ぶ。米国で始まり日本でも2000年代から広く使われてきた手法だ。好調な業績を背景に最近は減少していたが、コロナを機に再び増加に転じた。業績が悪化する前に手元資金を確保したいということだ。リクルートHDが銀座の本社ビルを売却するのも保有資産を現金化して財務基盤を強固にするのが狙いだ。
ヒューリックとの関係は深い。12年、東京・銀座7丁目に保有していた「リクルートGINZA7ビル」をヒューリックに売却した。売却額は約100億円。同ビルは1984年から保有していたが、老朽化に伴い賃借に切り替えた。
リクルートグループは創業者の江副浩正氏がリゾート施設やマンションなどを手がけ、銀座の一等地にビルを建てるなど80年代に多数の不動産を保有していた。その後の事業再構築で大半を売却したが、本社ビルは最後まで残っていた。リクルートの成長のシンボルを売却したことで保有不動産の整理は完了した。
21年3月期の純利益を上方修正
21年3月期の連結決算(国際会計基準)の業績予想を上方修正した。純利益は前期比31.3%減の1235億円の見込み。最大1182億円としていた従来予想を引き上げた。登記上の本社ビルの売却は21年3月期の業績に織り込み済みという。
売上高に当たる売上収益は前期比7.3%減の2兆2246億円(従来予想は最大2兆2446億円)、営業利益は26.6%減の1512億円(同最大1467億円)となる見通し。新型コロナウイルス対策の経済産業省の受託事業である「家賃給付事業」で932億円を売上高に計上する。これが減収が最小限にとどまる理由だ。
20年11月、新型コロナウイルスの影響で先行きが見通せないとして、「未定」としていた21年3月期の連結業績が大幅な減収減益になると発表した。減収減益になるのは14年の東証1部上場以来初めてのことだ。
本業では米国の求人サイト「インディード」が好調だ。「インディード」など「HRテクノロジー事業」は下期に売上高が前年同期と比べ約11%増えると予想する。求人広告数がコロナ前の水準に戻ってきた。
一方、国内ではリクナビなどの「人材領域」の売上高が約28%減と予想。新型コロナの緊急事態宣言が再び発令され、結婚情報サイト「ゼクシィ」や飲食店予約サイト「ホットペッパーグルメ」が引き続き低調に推移する。これまで健闘してきた不動産サイトも販売できる住宅供給戸数が減り、広告出稿が減る可能性がある。
株式時価総額は10兆円の大台に王手
株価は連日のように高値を更新し、2月25日には年初来高値の5568円をつけた。21年3月期の通期業績予想を上方修正したことが好感され、買いが集まった。14年10月に東証1部に上場した当日の時価総額は1.9兆円だった。今や9.1兆円(3月2日終値時点)。4.8倍になった。全上場企業中第7位である。
12年に約1000億円で買収した米国の求人サイト「インディード」が株価上昇をもたらした。「インディード」が大半を占めるHRテクノロジー事業の営業利益は712億円と3年で約4倍になった。20年10~12月はHRテクノロジー事業の営業利益が全体の3割に達し、大黒柱に育った。
日本企業の多くが海外M&Aで失敗するなかで、リクルートHDの「インディード」の買収は数少ない成功例である。凸版印刷、電通グループ、大日本印刷、TBSテレビ、日本テレビ放送網など8社が20年12月上旬、リクルートとの株式持ち合いを解消し、発行済み株式の6%弱、金額ベースで3700億円強の株式を売却したが、「インディード」効果から海外の投資家がすべて引き受けた。
米国ではオンラインの求人広告や採用サイトで「インディード」がトップ。「インディード」のリクルートとして海外投資家がリクルート株を買った。時価総額で10兆円の大台に乗る日は近い。
(文=編集部)