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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

薬の「効き目」、信用揺るがす調査相次ぐ…論文の結論を捻じ曲げる製薬企業マネー

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
薬の「効き目」、信用揺るがす調査相次ぐ…論文の結論を捻じ曲げる製薬企業マネーの画像1「Thinkstock」より

 新薬の製造・販売が認可されて実際に病院で使われるようになったあと、「市販後調査」なるものが行われることがあります。具体的な手順が国際的に決められており、おおよそ次のようなものです。

 まず数千人のボランティアを募り、調査に協力することに同意する書類にサインをしてもらいます。その後、年齢、性別をはじめ病歴、検査データ、喫煙や飲酒の習慣、居住地域などを詳しく調べ、これらに偏りが出ないようコンピューターを使って公平に2つのグループに分けます。

 その一方には、調査の対象となる新薬を、もう一方のグループにはそっくりに似せてつくった偽薬を服用してもらうのです。後者は「プラセボ」と呼ばれ、非常に重要な働きをします。気は心とも言います。その昔、パン屑を丸めただけの偽薬を、血圧の薬と偽って多くの人に飲ませるという実験を行ったところ、本当に血圧が下がったという話もあります。こんなことを避けるためにプラセボは必要なのです。

 さて、ここまでの説明でおわかりのように、薬の調査には人手も含めて莫大な費用がかかります。新薬がひとつでも当たれば巨万の富が生まれますから、当の製薬企業がスポンサーとなるのが自然の流れです。税金や浄財から研究費を受ける制度もなくはないのですが、競争が激しく金額も少なく、あてになりません。

 薬の問題は、諸悪の根源がここにあると言っても過言ではないでしょう。スポンサーの意向に逆らうことはできませんし、かりにスポンサーが太っ腹で具体的な注文はなかったとしても、そこは人間の営みですから気遣いや遠慮が生じるに決まっています。

最新治療の根幹揺らぐ

 具体的にどんなことが起こっているのか、カナダ発の論文で見てみましょう【注1】。いわゆる「痛み止め」にはいくつかの種類がありますが、働きがほぼ同じであることから、まとめて「非ステロイド性消炎鎮痛薬」とも呼ばれます。これらの薬を対象に、「開発した製薬企業がスポンサーになった調査」と「それ以外の研究費で行われた調査」で、結論に違いがあるかどうかを比べてみた、というタイムリーな内容です。

 データを報じた56編の論文を精査した結果、わかったのは「やっぱり」と思わせるに十分なものでした。鎮痛剤がよく効いたと結論した論文は、薬を開発した製薬企業がスポンサーになっていたほうが、そうでないものに比べて2.5倍も多かったのです。副作用についても同様の傾向があり、製薬企業がスポンサーになっていたほうで「心配ない」と結論した論文があきらかに多かったそうです。

 もうひとつ興味深いデータがあります【注2】。変形性股関節症や関節リウマチ骨折などで、股関節を金属やセラミックなどでできた人工関節に置き換えるという治療法があります。人口の高齢化で、この手術を受けた人は過去10年間で2倍にも増えているとされています。

 この手術法の結果を報じた論文68編を調べ、「良くなった」「かえって悪くなった」「どちらとも言えない」の3つに分けてまとめたところ、「良くなった」と結論していた論文は、その機材を製造している企業がスポンサーになっていたほうで2倍以上も多かったということです。

 同じテーマで、もうひとつ驚きのデータを発表した研究者がいます【注3】。ほぼ同じ条件で行われた分析ですが、スポンサーつきの論文は、そうでない論文に比べて、「良くなった」と結論した割合が11倍も高かったというのです。分析方法やその妥当性についても分析したところ、表向き両者に違いは見つかりませんでした。

 医薬品や医療機器を製造販売している企業がスポンサーとなった調査・研究がどれくらいあるのか、正確な統計はありませんが、7割とも9割以上ともいわれています。われわれが病院で受ける最新治療が真に正しいものなのか、その根幹がいま揺らいでいます。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
注1) Rochon PA, A study of manufacturer-supported trials of nonsteroidal anti-inflammatory drugs in the treatment of arthritis. Arch Intern Med 154: 157-163, 1994.
注2) Ezzet KA, The prevalence of corporate funding in adult lower extremity research and its correlation with reported results. J Arthroplasty 18: 138-145, 2003.
注3) Khan SN, et al., The roles of funding source, clinical trial outcome, and quality of reporting in orthopedic surgery literature. Am J Orthop 37: E205-212, 2008.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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