三越伊勢丹ホールディングス(HD)は高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」を運営する三越伊勢丹フードサービスを三菱商事系の投資ファンド、丸の内キャピタルに売却する。
2018年3月をメドに、会社分割により三越伊勢丹フードサービスのスーパーマーケット事業などを承継する新会社を設立し、新会社の株式の66%を丸の内キャピタルに譲渡する。譲渡価格は非公開。クイーンズ伊勢丹の屋号は継承する。
三越伊勢丹フードサービスはクイーンズ伊勢丹と、三越の食品関連子会社だった二幸が11年に経営統合して誕生した。主力事業であるクイーンズ伊勢丹は、首都圏に17店舗を展開している。
三越伊勢丹フードサービスの17年3月期の売上高は497億円、営業損益は11億円の赤字、純損益も12億円の赤字。49億円の累積赤字を抱え、22億円の債務超過に陥っていた。
18年3月期の売上高は512億円と前期比3%の増収を計画しているが、営業損益は8億円の赤字、純損益は21億円の赤字の見込み。6期連続の赤字で、債務超過はさらに膨らみ3期連続となる。債務超過会社の株式の価値は二束三文にしかならない。三越伊勢丹HDは、株式の売却で借入金(98億円)、買掛金(30億円)など負債の一部を穴埋めする。
4月に就任した三越伊勢丹HDの杉江俊彦社長は、大西洋前社長の拡大路線と決別。2年かけて負の遺産を一掃し、V字回復を狙う。在庫を最大90%オフで社員に割引販売して驚かせた。
また、新たな早期退職制度を導入し、17年11月1日から募集を開始した。部長級の早期退職の対象年齢を現在より2歳若い48歳とし、退職金を最大5000万円上乗せする。バブル経済期に大量入社した総合職を中心に高止まりしている人件費を減らす。3年間で800~1200人の応募を想定している。
これは、バブル入社組の幹部を狙い撃ちにしたリストラ策だ。杉江社長は「いわゆるバブル入社組の数が他世代に比べ3~4倍になる」と述べている。
本業の三越伊勢丹など百貨店の低迷が続くなか、郊外店の伊勢丹松戸店を18年3月に閉店する。業績不振の地方店、郊外店の閉鎖は待ったなしだ。クイーンズ伊勢丹の売却も構造改革の一環だ。
だが、三越伊勢丹HDは新会社の株式の34%を引き続き保有する。なぜ、完全に切り離さなかったのだろうか。それは、子会社の従業員に配慮したからだという。社内には、前任者の大西氏が推し進めたワンマン経営への反発がある。社内の混乱を収めるため、労働組合や幹部社員との対話重視の経営を進めてきた。これに対し、証券アナリストからは「杉江氏の構造改革は中途半端」という失望の声が上がる。
J.フロント リテイリングの対処法と比較すると、三越伊勢丹は周回遅れが目立つ。
大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロントは13年4月、食品スーパーを運営する「ピーコックストア」の全株式をイオンに売却した。株式の譲渡額は130億円で、負債を含めた売買総額は300億円に上る。J.フロントは184億円の売却益を手にした。
松坂屋と大丸が経営統合してJ.フロントが誕生したのに伴い、松坂屋ストアと大丸ピーコックが合併して「ピーコックストア」となった。14年の消費増税を控えて業績が悪化するとみたJ.フロントは、高値でイオンに売却した。ピーコックストアは現在のイオンマーケットだ。
買収に手を挙げるのは阪急阪神百貨店かローソンか
クイーンズ伊勢丹はどこへ行くのか。丸の内キャピタルは、徹底的なリストラを断行し、財務内容を改善して転売する。買収に手を挙げると取り沙汰されているのは2社ある。
1社は、阪急阪神百貨店を擁するエイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)。大手百貨店のなかで唯一、スーパー事業に力を入れている。14年6月、関西地盤の中堅スーパーのイズミヤを株式交換方式で完全子会社にした。イズミヤは03年に高島屋のスーパー部門、高島屋ストア(現カナート)を買収している。
H2Oは首都圏では存在感が薄い。関西発祥の高島屋や大丸が首都圏進出を果たしているなか完全に出遅れ、いわば首都圏進出は悲願だ。首都圏に橋頭堡を築くため、クイーンズ伊勢丹を買収するのではないかと観測されている。だが、三越伊勢丹はM&A(合併・買収)など、重要な経営案件について拒否権を発動できる3分の1以上の株式を保有することになる。ライバルのH2Oにクイーンズ伊勢丹をみすみす売り渡すとは考えにくい。そのため、H2Oは脱落する可能性が高い。
では、どこが手を挙げるだろうか。コンビニエンスストアのローソンならあり得る。ローソンは、丸の内キャピタルから高級スーパーの「成城石井」を買収した実績があるからだ。
丸の内キャピタルは11年5月、レックス・ホールディングスから成城石井を400億円で買収し、14年9月にローソンに転売した。この時はローソン、三越伊勢丹HD、イオンが争奪戦を繰り広げた。イオンが脱落し、三越伊勢丹HDとローソンの一騎打ちとなった。
三越伊勢丹HDは、成城石井の買収にことのほか熱心だった。それは、クイーンズ伊勢丹が業績不振だったため、高収益を誇る成城石井のノウハウを得て立て直したいとの思惑があったからだ。
しかし、買収価格でローソンを下回った。そこで三越伊勢丹HDはローソンに「共同買収しよう」という大胆な提案をし、成城石井の経営に参画することに執念を燃やした。だが、株式比率で折り合えず、話し合いは決裂。ローソンが550億円で成城石井を買収した。
仮にこの時に三越伊勢丹HDが成城石井を買収していれば、今回のクイーンズ伊勢丹売却はなかったかもしれない。
クイーンズ伊勢丹が三菱商事の子会社であるローソンに売却されれば、三菱グループ内での会社のトレードといえる。
(文=編集部)