しかし今回、「テレビなどを設置した国民」は、NHKを見ようと見まいと「契約をする義務」があるとされてしまったわけです。この点について最高裁は「NHKの受信料制度は公共の福祉に適合するから、NHKとの契約を義務付けても問題ない」と判示しています。これは、「NHK」という公共放送を維持するためには国民から受信料を強制的に徴求しないと成り立たないからである、という発想を前提としています。
ここで、NHKの受信料というものを税金のように、例えば「自動車税」のように、自動車を持っている人から強制的に徴求して道路などの整備費用に充てるのと同じように考えれば、「テレビを持っている国民みんなから受信料を徴求して公共放送をつくろう」という考えも納得できます。
受信料を支払うこと(例:自動車税を支払うこと)で、公共放送という恩恵(例:道路を整備するという恩恵)を受けることができるわけです。まさに利用者負担の原則に適うわけです。
しかし、民放放送やケーブルテレビなどが発達している今日、またテレビをインターネット受容体として使う人がいるなか、はたして「テレビをNHKを見るために買う」人がどれだけいるでしょうか。「NHKは絶対に見ません」という固い意思をもち、リモコン上もシステム上もNHKのチャンネルを削除すれば、「受信料を支払う=恩恵を受ける」という図式は成り立たないのではないでしょうか。
今後どうなる?
一度、NHKと契約をした後、なんらかの理由で受信料を支払っていなかった方は、これまでどおり「5年」の経過によって、その未払い分は「消滅時効」にかかります。もし5年以上前の受信料を請求されたら、自信を持って「消滅時効」を主張しましょう。
これに対し、テレビを設置したあと、一度もNHKと契約をしていない方は、テレビを設置したときまでさかのぼって請求されることになり、今のところ、これを拒むロジックはありません。
なお、今回の最高裁の判決によってNHKと契約をしていない国民全員が、有無をいわさず自動的に「契約成立」とされたわけではありません(今回の判決には、いわゆる「一般効」はないと考えられます)。
今後、お宅に強気の徴収員がやってきて「最高裁の判決見たでしょ」と行って来たら、(1)「おっしゃるとおり」として未払い分を支払うか、(2)NHKに裁判を起こしてもらって敗訴が確定するまで戦うか、どちらかを選択することになるでしょう。後者を選択した場合、NHKから裁判を起こされて、おそらく1~2年後には同じような判決をもらうでしょう。今回の最高裁の判決をひっくり返すのはほぼ無理です。
また、今後は「外国人は一部の税金を免除されている」ことをヒントに、「外国人だからNHKと契約義務はない、受診料は払わない」などといった主張や、「テレビを買ったのは、昨日です」といった主張が展開されそうです。
(文=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)