診療報酬に自動調整メカニズムを導入
そこで筆者は、75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度において、その診療報酬に自動調整メカニズムを導入することを提案したい。
まず、診療報酬とは、医療機関や保険薬局が医療行為等に対する対価として保険者から受け取る報酬をいい、 厚労大臣が中医協(中央社会保険医療協議会)の議論を踏まえ決定する。各医療行為で点数が定まっており、原則的に実施した医療行為ごとに対し、それぞれの診療報酬項目に対応する点数がすべて加算され、1点の単価を10円で計算して報酬が医療機関等に支払われる。
一般的に、診療報酬は年齢にかかわらず定められていると思われているが、一部は年齢で異なるケースもある。その事例が、後期高齢者医療制度の2008年の発足時において、75歳以上の後期高齢者に限って新設された診療報酬項目で、後期高齢者特定入院基本料(75歳以上の患者が90日を超えて入院すると、一定の場合を除き、医療機関への診療報酬が減額となる仕組み)、後期高齢者診療料や後期高齢者終末期相談支援料などである。
これらの診療報酬項目の一部は、その後の診療報酬の改定において廃止や改正が行われているが、上記の事例は、75歳以上と75歳未満の診療報酬体系を異なる仕組みで構築できることを意味する。
このため、マクロ経済スライドと同様、例えば現役世代の人口減や平均余命の伸び等を勘案した調整率を定めて、その分だけ全体の総額の伸びを抑制することにしてはどうか。
この調整のために最も管理しやすい方法は、75歳以上の診療報酬において、ある診療行為を行った場合に前年度Z点と定めているすべての診療報酬項目の点数を、今年度では「Z・(1-調整率)点」と改定することである。
また、上記とは異なる方式だが、医療費の伸びが名目GDP成長率を上回るとき、総額管理方式として、次のような調整も考えられる。例えば、医療費総額の伸びが2%で、名目GDP成長率が1%であるとき、調整率を1%に設定すれば、名目GDPに対する医療費総額は一定に維持することができる。
以上のような仕組みで診療報酬を抑制しても、自己負担は診療報酬に比例するため、75歳以上の自己負担が基本的に増加することはなく、国民負担が増加することはない。
なお、短期間のみの調整では、医療財政の持続可能性を確保するのは難しいのは明らかであり、財政の持続可能性を高めるためには、一定期間の間、このような仕組みで毎年度の改定を行う必要があることは言うまでもない。
その場合、医療機関等への経営に及ぼす影響にも注意する必要があるが、その影響分については、公的医療保険の一部を民間医療保険でも代替できるようにして、民間医療保険のほうで稼ぐことができる環境整備で対応できるのではないか。
いずれにせよ、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、医療費や介護費は急増することは確実である。医療財政の持続可能性の向上や、医療費抑制の「脱政治化」を図る観点から、後期高齢者医療制度でもマクロ経済スライド的な仕組みの導入に関する検討を深めてみてはどうか。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)