2018年度の予算編成では、薬価引き下げや急性期病床の報酬要件の厳格化等により、膨張する医療費を抑制する方向性を示したが、団塊の世代が75歳以上になる2025年度では医療費は現在の約40兆円から約54兆円に増加する見込みで、その効果は一時的にとどまる可能性が高い。
小手先の改革では、医療財政の持続可能性を確保できず、なんらかの抜本的改革が必要であるが、筆者はその参考になるのは、2004年の年金改革であると考えている。
2004年の年金改革では、年金給付の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みを導入した。現在の年金は基本的に現役世代の負担で老齢世代の給付を支える賦課方式となっており、少子高齢化が進展すると、現役世代の負担が増加する圧力がかかる。
その際、マクロ経済スライドとは、年金財政の持続可能性の向上を図る観点から、現役世代の人口減や平均余命の伸び等、その時の社会情勢に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整して現役世代の負担増を抑制する役割を担い、給付抑制の「脱政治化」を行うものである。
現在のところ、医療や介護に自動調整メカニズムは存在しないが、そもそも医療のコストは老齢期に集中し、そのコストは現役世代が負担する傾向が強いため、年金の財政スキームと同様、医療の財政スキームも賦課方式に近いものとなっている。
実際、2014年度における65歳未満の1人当たり医療費は18万円であるが、65歳以上かつ75歳未満の1人当たり医療費は約3倍の55.4万円、75歳以上のそれは約5倍の90.7万円であり、その財源の大部分は現役世代の負担で賄っているといっても過言ではない。
このため、医療制度にも、年金改革で導入したマクロ経済スライド的な仕組みを導入できないだろうか。2005年の秋頃、政府の経済財政諮問会議では、医療制度改革の議論を行い、民間議員が経済指標に基づき医療費総額の伸びを抑制する「総額管理」の導入を提言したことがあるが、具体的な制度設計に関する議論は行われなかった。
団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、医療費が急増することは確実であり、いまこそ、改革の議論を再開するときであると考える。