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年末、ヤマトに広がる恐怖感…「激増する荷物を届け切れるか」問題が深刻

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授

 こうした取り組みこそが、働き方改革だ。働き方改革の本質は、過度な長時間労働を是正し、従業員のやりがいや満足度を高めながら需要の取り込みを実現することにある。新しい技術が導入され、それまでの行動様式が通用しなくなると、私たちはその技術を「使えない」と批判しがちだ。しかし、業務の運営に必要な人の数を減らすためには、機械化などの取り組みは止めることができない。そうした社会が到来していることは冷静に受け止める必要がある。

 また、ヤマトは新事業の育成にも取り組んでいる。駅ビルでの試着サービスの実施はそのひとつだ。一般的にこうした取り組みは、返品の数を減らすことが目的だと説明されることが多い。それは、ごく表面的な解釈にすぎないと考えられる。

 ネットワーク技術の導入が進むと、物流業者が、従来には取り扱われてこなかった新しいビジネスに参入する可能性が高まる。ヤマトはそうした展開を念頭に置いているはずだ。同社は蘭フィリップスの日本法人とも医療機器の製品輸送などの連携を模索している。単に物流を担うだけでなく、従来には事業の対象となってこなかった分野で機器のメンテナンスなどがヤマトのビジネスになっていく可能性もある。

ヤマトが大きく変える物流の常識

 
 ヤマトは国内の宅配事業で50%程度のシェアを持っている。ヤマトの料金引き上げを、アマゾンは受け入れた。11月には佐川急便も値上げを決定した。国内物流業界全体で、値上げへの対応が進んでいる。それだけ、ヤマトの影響力は大きいということだ。

 サービスの供給価格を引き上げることは、消費者の行動を変化させる。ヤマトの値上げを受けて、再配達=タダという従来の考え(常識)は大きく変化し始めたように見える。同時に、できるだけ早く、臨んだ時間帯に品物を手元に置きたいという欲求も根強い。

 そうしたニーズを満たすために、オートメーション化された倉庫の運営など、業界全体での革新が進むだろう。供給サイドの変革が新しい需要を生み出し、より多くの付加価値を創出するのである。

 物流には、バーチャル(ネット空間)とリアル(実生活)の懸け橋としての役割がある。その役割を経営者が理解し、新しい取り組みを進めることが収益機会の獲得につながる。状況によっては、ヤマトが小売り業や、IT関連サービスを提供することも考えられる。物流業は、これまでの発想に基づいて物流サービスを行わなければならないという縛りはない。

 それは他社にも当てはまる。収益の見込める分野があり、自社の強みを発揮できるのであれば積極的に参入すべきだ。他に先駆けて市場を開拓し、先行者利得を得る取り組みを続けることが、需要を創る。最終的には、それが生産性を高める。

 ネットワーク技術の進歩と普及によって、環境変化のスピードは加速し、競争は激化するだろう。変化に対応するためには、個社独自の取り組みよりも、国内外を問わずより多くの企業とオープンな協力体制を築き、イノベーションを目指した取り組みを続けることが不可欠だ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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