テレワークの導入に向けた動きが官民で盛り上がっている。政府の「働き方改革実行計画」(3月)でも柔軟な働き方として積極的な導入を呼びかけている。
といっても、盛り上がっているのは政府とそれに乗じてテレワークをビジネスとして売り込む企業だけであり、実際にはほとんど普及していない。テレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、(1)在宅勤務、(2)移動中などのモバイルワーク、(3)サテライトオフィス勤務――の3つが入る。
ICT企業はビジネスチャンスととらえ、在宅勤務のハード機器やシステムなどのソフトの売り込みがヒートアップしている。たとえば在宅時に社員がパソコンの前にいることを確認し、勤務時間をカウントするシステムを販売している大手メーカーもある。社員がちゃんと仕事をしているか確認できないという不安を反映した商品だが、社員にとっては監視されているようで気持ち悪いだろう。
また、会社と自宅の中間の拠点駅に仕事スペースを設けるサテライトオフィスについても、不動産会社を中心に企業への売り込みが激化している。本来、テレワークの目的は通勤費や駐車場・オフィスコストの削減、災害時の事業継続性、人材確保と定着にあるとされているが、サテライトオフィスは、社員にとっては便利かもしれないが、会社にとっては逆にオフィスコストの増加につながる。
さらにいえば、テレワークに限らずどんな働き方改革でも、究極の目的は業務の効率化と生産性向上にある。生産性の向上に結びつかなければ、テレワークが普及することはないだろう。
だが、政府の狙いは「時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる」(働き方改革実行計画)とされ、今ひとつ曖昧だ。仕事と家庭の両立支援が目的ならともかく、在宅で子育てや介護をしながら生産性を向上させることはほぼ不可能に近いだろう。
導入企業は広がらず
政府の目的の曖昧さを示すのが「テレワーク・デイ」だ。今年の7月24日に実施されたが、その目的は2020年の東京オリンピックの開会式当日の交通機関混雑緩和を図ることにある。当日は922の企業・団体が参加し、事務局はテレワーク・デイについてオリンピックを契機に全国的にテレワークの普及と働き改革のレガシーにすると謳う。