元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな帳簿は「裏帳簿」です。
無予告調査――。現在では減りつつありますが、事前連絡なしで突然、税務調査がやってくることがあります。現金商売など、証拠書類を破棄され、円滑な調査が難しいと予想される場合に行われます。今回は、そんな無予告調査の実例を紹介します。
無予告調査の実例
調査官2名は、ある月曜日の朝9時、調査対象の代表者の自宅に無予告で臨場しました。代表者は、都内で5店舗の居酒屋を経営、設立10年目で調査履歴はなく、ずっと青色申告で確定申告を行っていました。
月曜日に臨場したのには理由があります。銀行が閉まっている土日の売り上げは、社長が自宅に持ち帰って保管していると予想してのことです。店舗は、本店と支店合わせて5店。代表者に話を聞くと、本店にはレジがなく、集計は客の注文を聞き取って記入した伝票のみで行っているそうです。
毎日の売り上げの管理は代表者自身が行い、本店の事務所にある金庫に3日分の売り上げが保管されていました。これを数えれば、3日分の売り上げがわかりますが、代表者は売り上げと小口の現金が混在していると言います。通常、このようなことはありえませんが、管理が杜撰であるか、あるいは「売上除外」を追及されたときのことを見越しての発言と考えられます。
本店の現金出納帳を確認すると、毎日の売り上げが記帳されていました。しかし、2週間前から記帳が止まっています。これから記帳する予定だったとのことで、その計算の根拠となるレジロールなどは本店にはないため、伝票を集計して日計売上を算出します。その場で2週間分の売り上げを集計したところ、記帳されていた日から比べて、2割ほど売り上げが増加していました。
代表者は「天気、気温、宴会の有無などで売り上げが増えることもある」と主張しました。おそらく、伝票の一部を破棄しているものと考えられます。支店の売り上げは増加していないのに、本店の売り上げのみ増加しています。さらに、本店では経費の合計額は、記帳前と記帳後で変わりませんでした。仕入れが変わらないのに売り上げだけ増えるということは考えづらいので、やはり売上除外が想定されます。