元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな相続財産は「金ETF」です。
数年前に基礎控除額が引き下げられ、多くの中間所得者層が対象になった相続税の確定申告。一生に一度あるかないかのこの煩わしい作業を税理士に依頼するか、自身で書籍から情報を得てやりきるかは迷うところです。税理士に依頼すると、数十万~数百万円の費用がかかることに鑑みれば、自身で申告する方がいるのも仕方がありません。しかし、生兵法は大ケガの元です。過信が、想定以上の出費を招くことがあります。
神奈川県内の会社員Aさんは、父親が亡くなり、自宅とその土地、預金を相続しました。相続人はAさんのみで、相続財産は基礎控除の3600万円を超えていたので、自分で確定申告をすることにしました。所得税の確定申告は、配偶者の出産の時と、家を買った時に行っていたので、相続税の確定申告も問題ないと考えていたのです。
書籍を2冊ほど購入し、インターネットで調べて、税務署にも相談に行き、無事に確定申告を終えたそうです。相続財産は、旅行に行ったり、腕時計を買ったりして費消しました。
相続税の税務調査は、所得税や法人税と比べると確率が高く、4人に1人は行われます。特に、税理士に依頼せず個人で確定申告を行えば、不正はなくとも誤っている可能性があります。そのため、必然的に調査が行われる確率は上がります。Aさんの確定申告書を見た調査官は何点かの誤りに気づき、Aさんに電話をしました。それは、確定申告から2年たった秋のことでした。土地の評価方法や預金の移動に疑問を持った調査官は、Aさんを呼んで指摘事項を伝え、税務調査を行うことにしました。1週間後、上席国税調査官と2人でAさん宅に臨場、証拠資料の確認を行いました。
200万円の追徴課税
所得税や法人税の調査と同じように、まずは世間話をします。この世間話から、被相続人(亡くなった人)や相続人の情報を聞き出します。
たとえば、被相続人の死亡原因、病状、入院先、入院期間などを聞き取ります。入院が長ければ、死亡を見越して、亡くなった人の預金を相続人が引き出しているかもしれません。それは相続財産に含まれる可能性があります。ほかにも、亡くなった人の職歴や性格、交友関係、趣味嗜好を確認します。財産を管理していた人が誰かも重要です。今回の調査では、Aさんしか相続人がいませんでしたが、管理者がほかにいる場合、恣意的に預金を引き出している場合があります。
被相続人について質問が終われば、次は相続人について聞き取りをします。家族、仕事、収入、預金、不動産、贈与の履歴、金融機関の利用状況などです。収入を確認し、そこから算出した想定預金と実際の預金残高が乖離している場合は、生前贈与の可能性があります。不動産については、相続税の申告そのものから漏れている可能性もあります。
Aさんは被相続人と同居していたため、預金通帳と印章の保管場所も確認しました。今回は問題ありませんでしたが、遠方に住んでいる親戚名義の預金通帳が見つかることがあります。相続財産を減らすために毎年贈与をしていても、預金の管理者が被相続人であれば、贈与したとみなされません。その場合、相続財産に含まれることになります。
今回の調査では、相続時によく使われる小規模宅地の特例の要件を満たしていなかったことと、死亡直前の300万円の預金の引き出しが否認されました。Aさんに否認事項を伝えても理解しているようには見えず、ただ納税の意思を示しただけでした。納税者からの質問があれば、納得がいくまで調査官は説明しますが、それでもすべてを理解するのは難しいかもしれません。そういった点でも、税理士に依頼することをおすすめします。最終的に、追徴税額は200万円になり、Aさんは分割で支払ったそうです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)