過去5年分の修正申告
ここからは、記帳済みの伝票を集計します。まず、業者に発注しているおしぼりの数を確認しました。伝票にはテーブルごとの客数が記載されており、その合計とおしぼりの発注数が近似するはずです。しかし、代表者は「おしぼりは、ひとりのお客さんにひとつ渡すわけではない。テーブルを拭くときも使うし、掃除などにも使う」との主張でした。しかし、利益を考えるならば、外注しているコストの高いおしぼりを清掃に使うのは考えにくいです。
さらに、追及します。おしぼりと同じように、割り箸についても確認します。代表者は「割り箸も、ひとり一膳ではない。その本数によって客数を計ることはできない」との主張でした。
ここで、瓶ビールの仕入れ数について確認することにしました。おしぼりや割り箸と違い、伝票に記載されている瓶ビールの数は言い逃れができないと考えてのことです。やはり、瓶ビールの仕入れ本数と、伝票を集計したビールの注文数には乖離がありました。代表者に確認すると「ビールは、サービスで振る舞うこともある。閉店後に従業員に私の権限で飲ませることもある。落として割ってしまうこともある」との主張でした。かなり無理のある主張のように思えます。従業員に振る舞っている分は、現物給与として源泉所得税の対象とすることもできますが、それはごく一部で伝票を破棄している可能性が高いと考えられます。
実際、業者への注文数100に対し伝票のビールの数は70と、大きな差がありました。状況証拠は揃っていても、のらりくらりとかわすだけの代表者。調査官は、従業員に聞き取りを行うことにしました。複数の従業員に話を聞くと「おしぼりで清掃を行うことはない」「代表者はまかないを無料で食べることは許可しているが、特別な日以外、アルコールを無料で飲ませてくれることはない」「また、ビールを客に無料で提供することはない」とのことでした。
これらの証言を代表者に突きつけて、売上除外を認めさせ、過去5年分の修正申告を行わせました。
無理のある言い逃れでは、調査官は決して諦めません。逆に、取引先や従業員に迷惑をかけることになります。初めから正しく申告するのが、賢い選択です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)