「ジェネリック医薬品なら知ってるけど、ジェネリック家電って何?」と思っているあなた。でも大丈夫。“ジェネリック家電”という言葉は知らなくても、知らずにすでに使っているかもしれません。たとえば、LED電球とヘアドライヤー。値段を「価格.com」で比較すると、価格差は一目瞭然。しかも、機能は必要にして十分なのだ。
パナソニック製LED電球(1080円)>アイリスオーヤマ製LED電球(573円)
パナソニック製ナノケアドライヤー(14996円)>コイズミ製イオンドライヤー(3795円)
すでに使っていませんか? ちなみに、我が家で電球とドライヤーといったらアイリスオーヤマとコイズミが定番! 電球は光ってナンボ。10年間光ってくれて値段が半分なら、アイリスオーヤマ製でノープロブレム。ヘアドライヤーも大風量で髪を乾かせられれば十分。コイズミのマイナスイオンドライヤーは大風量で、色もデザインもお洒落。ヘアケアに余念のない我が家の娘も大満足で、浮いたお金で外食もできて一石二鳥!
それでは、「ジェネリック家電」の名付け親で、一般社団法人ジェネリック家電推進委員会(JGHEP)代表理事であり、ジェネリック家電が登場する映画「下町の詩シリーズ」の監督でもある、近兼拓史氏(55)にご登場願おう。
「ジェネリック家電という言葉はボクが作りました。日本の家電は流通の歴史のなかで、大手8社と言われてきて、それ以外のメーカーの製品はB級家電と呼ばれていたのです。昔は全国にパナソニックのお店みたいな直営店があって、一度お世話になったら、テレビから電球1個まで、家中全ての家電をそのメーカーでお世話にならなければいけない。そのかわり、電球1個切れてもお店の人が取り替えに来てくれるシステムでした。ところが、1970年代に入ると大阪の日本橋と東京の秋葉原の問屋街で、一般のお客さんでも好きなメーカーの電化製品を自由に買えるようになりました。これが現在の家電量販店の走りだったわけです。でも、買えたのはやはり大手8社の製品だけ。B級家電はディスカウントストアや海外に販路を求めるしかありませんでした。
しかし、リーマンショックで状況が一変します。大手もすべての分野で新製品を作ることができなくなって、その結果、大手家電量販店もB級家電を扱うようになったのです。同時に、大手は自分が生き残るのに精一杯で、今まで使っていた下請けさんを切り始めました。下請けさんたちは自分たちで生きる術を見つけるしかなかった。大手の製品を製造してきたので技術はある。つまり、ブランド名が変わっても優良な製品がたくさんあった。そんな製品と、安さだけを売りにした粗悪な製品を一緒にするのはいかがなものか。安くても安心できる製品は区別すべきではないかと思い、そういう製品を製造している会社をジェネリック家電メーカーと呼び、PRして応援しようという流れを作っていったわけです」
必ずしもメイドインジャパンであるかは問わない。アジアで製造した製品でも、販売会社がしっかり監修して、クオリティを保証してくれればいい。問われるべきは“ジャパンクオリティ”であるか否か。近兼氏はそう力説する。ちなみに、大手とはソニー、パナソニック、シャープ、NEC、東芝、日立、三菱、富士通の8社を指す。ジェネリック家電を愛してやまない近兼氏。家電製品の購入、使用にも独自のこだわりがある。
「なるべく、大手とジェネリックの両製品を同時に購入して使っています。ジェネリック家電だけだと『高いのが買えない負け惜しみだろう』と言われるからです(笑)。ですから、掃除機だってダイソンを6台、ルンバも4台持っています(笑)。けれども、ジェネリック家電だって吸引力は負けていない。価格は1万円以下ですが、掃除機としての機能はほぼ大手と比べても遜色ない。価格差は4万円ほどあるのにです。それでも掃除機を購入する際、ジェネリック家電は検討に値しませんかと私は言いたいのです」
ジェネリック家電市場は2兆円規模に拡大
ジェネリック家電メーカーはこうしたPR、応援をどう思っているのだろうか。
「ジェネリック家電の定義はいくつかありますが、すべてを満たす必要はありません。まずは安くても高性能、必要な機能を絞っていること、大手が作らないようなおもしろい製品かどうかなど。メーカーさんも最初はジェネリック家電という名称を馬鹿にされているのではないかと思われたようですが、最近はそれが褒め言葉だと受け取ってくれるようになりました。家電の市場規模は7兆円ですが、ジェネリック家電の市場規模はすでに2兆円まで成長しています。家電量販店にお越しになる皆さんの8割の方がご存じで、最近は『ジェネリックでお願いします』という指名買いも増えてきました。B級は嫌だけどジェネリックはほしいと。
バブルの時代ではないので、家中の家電をぜんぶブランドものにする必要はありません。たとえば、リビングのテレビはブランドものの良いテレビにするけど、子ども部屋や寝室のテレビまでぜんぶソニーにする必要はないよねということです。あとはコスパ。パナソニックさんのホットプレートが23000円で、ほぼ同じ機能の山善さんのホットプレートが7800円なら、価格差は15200円です。その浮いたお金で、良い肉がたくさん買えるじゃないですか。決してパナソニック製品の購入を否定するのではなく、焼くという機能が欲しいのであれば、別の選択肢もあって、浮いたお金で何かを買うことができるのです」
そうしたジェネリック家電のさらなる市場拡大を願って、2013年10月からジェネリック家電推進委員会により、年間グランプリを決める「ジェネリック家電製品大賞」が制定された。2013年度の第1回大賞受賞は山善の扇風機『YLT-AK30』。2014年度が山善の『LEDミニシーリングライトシリーズ』で、続く2015年度も山善のたこ焼き機『YOA-240(R)』と、3年連続で株式会社山善が大賞3連覇を達成した。山善は創業者の山本猛夫が花登筐の小説『どてらい男(どてらいやつ)』のモデルになった大阪の老舗機械商社。本業は専門商社だが、YAMAZENブランドで家電製品も販売しており、とりわけ扇風機、こたつ、ホットカーペットの販売数は日本一を誇る。
「ジェネリック家電という名前ができたのも、山善さんのおかげだと思っています。東日本大震災後の節電ブームのとき、夏の暑さで扇風機がよく売れるようになりました。しかし、大手メーカーはロボットエアコンに注力していて、旧式の扇風機は過去の遺物でした。そんな、年間70万台規模に縮小していた扇風機に特需が起こったのです。扇風機といえば山善さんが最大手で、3980円で売っていました。山善さんに取材に行って、今なら4980円でも売れますよと言ったら、『みんなが困まっとるときにうちだけ儲けることはできない』と、逆に2980円に値段を下げはったんです。こんな会社が作った製品はもっと応援しないといけないと、それで僕らも広めていったわけです。夏の終わりには1980円で売ってましたからね。安さは愛情です。高く売って儲かった方がいいけど、そこで逆に安く売ろうというのは、消費者への愛情表現ですよね。これは大事にしてあげたい部分だと思ったのです」
今年のジェネリック家電製品大賞はドン・キホーテの2連覇なるか
2016年度も山善がラジオで4連覇かと思われたが、第4回はドン・キホーテの『情熱価格 ジブン専用PC&タブレット』(21384円)が大賞となった。ジェネリック家電製品大賞は今年で5回目。発表は例年2月だったが、今年から1月に繰り上がった。
「2月に大賞が決まって、3月に皆さんが買いに行くと、もう売り切れで買えないという声がありまして。学生さんや新社会人の方の需要が大きいので、それに合わせて賞の発表を前倒しにしたのです。昨年いちばん話題になったのは、ドン・キホーテさんの4K50インチ液晶テレビ(54800円)で、中身に東芝の基盤を使っていたので、『ジェネリックREGZA』と呼ばれてすぐに完売しました。2017年度の大賞候補として最有力視されています。ドン・キホーテさんだと2年連続になります。本来は販売店であるはずのドン・キホーテさんが、ジェネリック家電メーカーさんとタイアップして、お客さんの『こんな製品があったら買いたい』という声を見事に反映させた製品だと思います」
ジェネリック家電はいまや第3世代へと入った。安いけど高品質の第1世代。デザインにもこだわるようになった第2世代。そして、第3世代では付加機能が付くようになり、新興勢力も続々参入中。ジェネリック家電製品大賞は1月15日発売の集英社『週刊プレイボーイ』、『東京スポーツ』紙等で発表される。8つのジャンルごとに部門賞も発表されるのでお楽しみに。
また、近兼氏が監督した映画「下町の詩シリーズ」第2弾の『切り子の詩』もテレビ放映される。第1弾『たこ焼きの詩』には山善の扇風機やたこ焼き機が登場した。第2弾の『切り子の詩』は山善の商社マンを主人公にした働くお父さんへの応援歌。
※(切り子とは旋盤などで金属を加工する際に出る削りクズ「切り粉」の尊敬語として近兼氏が作った造語)
「第2弾にもジェネリック家電がたくさん登場します。庶民生活に欠かせないアイテムとして、ジェネリック家電を随所に盛り込むことで、少しでも認知度が高まって、少しでも製品が売れたらいいなという思いを込めています。『切り子の詩』は本編128分の映画ですが、テレビの2時間の枠に収めるには96分しか入らない。ぜひ、本編をDVDで見てください。現在製作中の第3弾映画『恐竜の詩』は、兵庫県の丹波市を舞台にした町おこしをテーマに描いた映画です。田舎の町でいきなり世界的に珍しい恐竜の化石が発見され、それで町おこしをしたいのですが、山奥の田舎町なので予算がないわけです。しかし、町ぐるみでジェネリック家電を採用すれば、浮いたお金で不可能なはずの町おこしでもできるんじゃないかという、願いを込めたストーリーになっています」
第2弾『切り子の詩』はDVDが好評発売中。テレビ放映は1月8日13時~が東京MXテレビ。第3弾『恐竜の詩』は地元プレミア上映が3月24日、渋谷ユーロライヴで6月1日から公開予定だ。さて、今年はどんなジェネリック家電が登場して、また消費者をアッと驚かせてくれるのか。2018年もジェネリック家電から目が離せそうにない。
(文=兜森衛)