“文春砲”がフジテレビアナウンス室を直撃した。15日発売の「週刊文春」(文藝春秋)は記事『「三田さんもやっている」フジ女子アナ7人が”美容室ステマ”』を掲載した。一部報道では、フジ以外の局にも波及する可能性が指摘されているが、そもそもキー局女子アナウンサーと美容業界の関係とはいったいどういうものなのだろう。今回発覚したサロンが特別なのか否か。調べてみた。
フジテレビはステマ、美容室に対する口止め疑惑を否定
「文春」によれば、あるメディアが井上清華アナの足の指が都内のネイルサロンのサイト上に公開されていることに関して同社に質問したことがことの始まりだという。
この美容室では井上アナだけではなく、三上真奈アナ、宮澤智アナらも同様にサービスを受けていたという。誌上では、カットやパーマなどの基本的な施術のみならず、まつエク(まつげエクステ)やネイルなど高価なサービスを無料で受けていたことも指摘されている。
一連の行いは3年ほど前から行われていたらしく、サービス料などは数百万円に上るという。また三田友梨佳アナも別の美容室で同様のことを繰り返していたのだという。
無料でサービスを受け、その見返りに店のインスタグラムなどに登場するのは宣伝活動の協力と見られてもおかしくない。
一般的に、アナウンス室はテレビ局の組織図上は編成制作局の下部組織に当たる。フジテレビにおいても「ニュース総局」という報道部門直轄の組織ではないが、公正な立場からニュース原稿を読む立場であるからには、特定の企業や個人の広告塔を務めることは望ましくはないだろう。
一連の報道に対して、当編集部が文書でフジテレビ広報宣伝室に事実関係を確認したところ、「事実関係の詳細については現在確認中ですが、いわゆるステルスマーケティングに該当する行為はないと考えております。また、文春報道にあるように、美容室等に対して、本件についての口止めを依頼した事実はございません。就業規則に抵触する行為が判明した場合には、適切に対処して参りたいと考えています」との回答を得た。
東京都新宿区で美容室やネイルサロンを経営する業界関係者は新型コロナウイルス感染症の拡大で苦境にある業界を踏まえて次のように語った。
「集客が難しく売上が落ちる中で家賃負担が経営を圧迫して厳しい状況です。有名店であっても状況は同じでしょう。そんな中でステマのために無料施術を無料にするのは十分あり得る話だと思います」
ミスコン時代からステマへの協力を仰ぐケースも?
では、今回のフジテレビの女子アナの案件は経営に苦しむ美容室が考えた苦肉の策だったのだろうか。千葉県内の元美容関係者は次のように語る。
「似たような話にカットモデルがあります。例えば知人に著名人がいたら、店のインスタに掲載するのと引き換えに無料の『カットモデル』をお願いして、インスタに載せるのはよくあることです。しかし、カットモデルが無料なのは『スタイリストや店の技術力の向上のために、協力してもらった代価として施術料が無料になる』という理由からです。
ただ、フジの女子アナのように、まつエクやネイルなど多額の材料費がかかる本格的な施術はそれには当たりません。報道にあるように、本格的に『作りこんでいる場合』は実費をいただくのが普通です。業界的にも広告効果を狙った過剰サービス、つまりステマといわれても仕方がないのではないかと思います」
一方、数年前まで港区南青山の有名ヘアサロンに勤務していたスタイリストは次のように説明する。
「今回、話題になっている渋谷区のサロンは芸能人が仲介したようですが、いろんなツテで女子アナに店に来てもらい、囲い込むサロンもいくつか知っていますよ。所属事務所の管理が厳しい芸能人と違い、比較的に接触しやすいからです。それらの店が無料でやっているかどうかは定かではありませんが。
女子アナのようないわゆる著名人が来ている店というのは、プライバシーの配慮がしっかりしているように見えるので、別の芸能人のお客様に来店していただく可能性が増えます。たくさんのお客様に来てもらうための宣伝というより、客単価が高い『上客』の獲得を目指すためにとても有効です。
女子アナといえば、女子アナ予備軍と言われる有名私立大学のミスコン参加者のファイナリストに無償施術を持ちかけ、のちのちの広告塔に仕立てるなんてこともありますよ。そういう女子大生は、在学中からOBOGや芸能関係者のツテを辿って、有名サロンにやって来ます。往々にして在学中だと、高額なサービス料を支払うのは難しいケースは多いです。そこで『カットモデル』に誘うのです。
今回の文春でも取り上げられていた、リポストという手法も多用されます。『髪を切ったよ』などと自身のSNSに投稿した文章や写真を、『店のSNSでも共有拡散します』と申し出れば彼女たち自身のアピールにもなるので、乗ってこない娘はまずいません。
少なくとも各大学ミスコンのファイナリストは、グランプリを獲得できなかったとしても、高確率でどこかの局の女子アナになります。つまり学生時代から懇意にしていた娘たちを介して、将来的に大物芸能人やスポーツ選手などの顧客獲得を目指せるわけです」
「中立公正な報道ガー」は「マジキモイ」?
一連のステマから透けて見えるのはテレビ局員の倫理観の揺らぎも見て取れる。一連の週刊文春の記事を読み終えた大手キー局関係者は嘆息する。
「取材に従事するスタッフは、こういう行為を禁じるよう入社時点から厳しく指導がなされるのですが、報道関係部局と一線を画しているアナウンス室では徹底されていない可能性が高いと思います。最近は自ら取材するアナウンサーも増えているので、今後は徹底するべきでしょうね。
報道に携わる人間は、美容室のサービスにとどまらず、宣伝目的で接触してくる企業や個人から、飲食や物品の供応を受けるのはご法度です。ところが、最近では取材先の企業から“プレゼント”をもらって喜ぶような若い記者も増えてきました。話を聞くと、『断ったら機嫌を損ねる。取材先との関係をスムーズにするためにもらっただけ』『何でそんなことで』と反論されます。むしろ『あいつ中立公正な報道ガーとか言って正義マンかよ、マジキモイ』とか陰口を叩かれる始末です。
文春に、フジテレビの女子アナが一連の行動を指摘されて『何でこんなことで』『友達だから断れなくて』と疑問の声を上げていたと書かれているのを見て、ああどこも同じだなぁと思わず嘆息しました。報道は泥臭いくらい生真面目にルールを守らなければ足元をすくわれるものなのですが、今のご時世、理解してもらうのは難しいのかもしれません」
日本のテレビ局は本当に大丈夫なのだろうか。