韓国では昨年5月に文在寅政権が発足して以降、好調な景気が続いている。これは主要な輸出先であるアメリカと中国の景気がよく、輸出が大きく伸びているからである。主要な輸出品である半導体メモリーも絶好調であり、三星電子も最高益を更新するなど、主要企業も好景気の恩恵を享受している。
そのようななか、若年層は好調な景気を実感できない状況にある。1月10日、韓国では2017年の雇用に関連する指標が公表された。これによると、15~29歳の失業率は16年よりも上昇した9.9%となり、2000年に失業者の定義が現在のものとなって以降、最悪の数値を4年連続で更新した。放送3社による大統領選挙の出口調査結果によれば、20代(19歳も含む)の47.6%が文在寅候補に投票しており、若い世代の文在寅政権に対する期待は大きいことがうかがえる。しかし、失業率という最重要な経済指標を見る限り、若年層の期待は裏切られている。
若年層の失業率が低下しない理由は、若年層が希望する職が減っていることに尽きる。大卒比率が高まり高学歴化が進んだ若年層は、大企業で正規雇用としての就職を望む。一方で大企業は正規雇用の採用を絞り込んでいる。当然、希望する職を得られない若年層が出てくるが、若年層は安易に妥協せず長期間職探しをするため、結果として多くの若年層が失業状態にとどまっている。
では、なぜ若年層が希望する職は少なくなったのであろうか。これは韓国では経済構造が大きく変化したにもかかわらず、1980年代後半以降、韓国の労働市場構造が変化していないからである。
大企業、雇用と賃金が硬直的
韓国における経済構造の大きな変化とは、経済の輸出依存の高まりである。輸出がGDPに占める比率は、1995年には20%を切る程度であったが、2000年には30%、05年には40%、10年には50%と急速に高まった。輸出は世界景気による好不調の波が大きく、企業は生産量が大きく変化するリスクにさらされることとなった。
また輸出を増やすためには国際競争力を高めることが不可欠であり、常に合理化が求められるようになった。企業が生産量の変化に対応するためには、生産が変化に合わせて柔軟に雇用量を変化させるなど雇用の柔軟性を確保することが重要になる。また国際競争力を高めるためには、採算がとれない部門を閉鎖するなど雇用調整を行うとともに、生産性の低下時には賃下げも辞さないなど賃金の柔軟性も確保する必要がある。
しかし韓国企業は、正規雇用者を解雇することは難しく、賃金も強い引上げ圧力にさらされている。労使関係が敵対的であるとともに、労働組合に有利な労使の交渉環境に変化が見られないからである。ちなみに、韓国では大企業の労働組合の組織率が高い。15年末現在、30名未満の事業所の組織率は0.1%にすぎず、100~299名でも12.3%であるが、300名以上になると62.9%に跳ね上がる。よって大企業の多くは雇用および賃金が硬直的であるといってよい。