韓国で労使関係が敵対的である理由のひとつとして、財閥のオーナーが所有する大企業が多いことを挙げることができる。労使は同じ船に乗っており、会社が沈まないよう労働組合が要求を抑えるという発想は韓国には乏しい。使用者は別世界の人々であり、労働者側が譲歩しても使用者側の富を増やすとだけと考えれば、どうしても労使関係は敵対的となる。
また韓国では、労働組合側がストライキを起こした場合、使用者側が対抗する手段が限定されている。日本ではストライキが発生しても、使用者側は中断した業務を行うため代替要員を確保することができるが、韓国では法律上これができない。また使用者側が労働者を事業所から締め出すロックアウトも制限されている。よって労働組合にとってストライキは要求を通すための効果的な手段となっている。
採用に萎縮する大企業
韓国の大企業は、輸出依存度が高まった経済を生き延びるために、雇用の柔軟性や賃金の柔軟性を確保する必要がある。しかし実際は、雇用調整は労働組合の反対でままならず、賃金も恒常的に上昇圧力にさらされている。
そこで大企業は生き残るため、正規雇用としての新規採用を最小限に抑え、有期雇用での雇用や請負など外注化を増やすことで雇用の柔軟性や賃金の柔軟性を確保するようになった。企業は自社の正規雇用者を減らすことで、雇用調整は容易となり全体の人件費も抑えることができる。労働組合も既存の正規雇用が削減されなければ問題はない。しかし、この煽りを受けたのが若年層である。
韓国では大学進学率が高まっている。1990年の大学進学率は33.2%にすぎなかったが、2000年には68.0%に跳ね上がり、09年には77.8%にまで達した。近年は若干進学率に下落が見られるものの、16年も69.8%と高水準である。大学生に人気が高い職場は大企業や政府機関である。統計庁の「社会調査」(17年実施)によれば、20~29歳の年齢層が職業選択の際に重視する点は、33.1%が収入、26.1%が安定性であった。韓国では大企業と中小企業間の賃金格差が大きく、高給かつ安定性を求めるならば大企業が一番良い就職先である。
しかし、大企業は景気が良くなっても将来景気が悪化したときのことを見越して、必要最小限の新規採用しか行わない。この状況を改善するためには、雇用の柔軟性や賃金の柔軟性を高める必要がある。しかし、現職の文在寅大統領は、支持母体のひとつである労働組合の保護を強めるなど、大企業を中心とした労働者の既得権はますます強化される傾向にある。よって大企業が若年層を採用する意欲は高まることはなく、逆に委縮する可能性もある。
さらに若年層にとって悪いことに、16年1月より常用雇用300人以上の企業で60歳定年が義務化された(17年1月よりその他企業も義務化)。従来は努力義務にすぎず平均定年は57歳程度であったため、ここ数年間は定年で会社から去る人が少なくなる。
多くの若年層は大統領選では明るい未来を託して現大統領に票を投じたと考えられるが、大企業が新卒採用に積極的になる状況からはほど遠く、若年層は好調な景気を実感できない状況が続くことが予想される。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)