従来型の機関投資家は時代に合わなくなっている
株式を発行すると、商法や証券取引法の厳しい規制を受けるため、多額のコストや手間がかかる。一方、トークンによる資金調達はスキームにもよるが、こうした制約条件が少なく、より簡単に資金調達が可能となる。スマホ時代を迎え、ベンチャービジネスがより小規模になり、事業の立ち上げが簡単になったことも、こうした新しい資金調達を後押ししている。
従来、ベンチャー企業に対する投資は、専門の機関投資家であるベンチャーキャピタル(VC)が担ってきた。VCは時間をかけてベンチャー企業を評価し、10億円単位の資金を投入した上で、時間をかけて育成するのが標準的であった。しかし、近年は、起業家がアイデアを立案すると、すぐにプログラミングしてサービスを立ち上げるのが当たり前となっている。
こうした、動きの速い新世代のベンチャービジネスに対して、従来の投資ファンドは規模が大きすぎる。ネット上で新しいプロジェクトを告知し、趣旨に賛同した個人投資家から資金を募るというコンパクトなスキームに対して、ICOのプラットフォームはうってつけなのだ。
こうした状況に目をつけ、実際にはプロジェクトが存在していないにもかかわらずお金を騙し取るという詐欺も横行している。それでもICOを実施しようという企業は今後も増える可能性が高く、それに応じる投資家層も拡大していくだろう。
現在は、設立間もないベンチャー企業の資金調達が主流だが、ICOのプラットフォームはあらゆる種類の資金調達に応用できる。その気になれば、規模の大きい企業が、商業銀行や投資銀行を介さず、直接トークンを発行して資金を調達するということも理論的には実現できてしまう。
適切な規制・管理についての議論が必要
重要なのはテクノロジーの進化によって、今までは各種の制約によって実現できなかったことが、物理的に可能になったという現実である。
技術的に可能になったことに対して感情的に反発したり、否定しても問題の解決にはならない。むしろ、こうしたイノベーションは不可逆的であることを前提にした上で、どのように管理・育成すべきなのか議論したほうがずっと有益である。
筆者がもっとも危惧するのは、仮想通貨に対して「好き」「嫌い」「ケシカラン」といったレベルでの議論に終始し、適切な管理の枠組みについて議論しないまま事態が進行することである。
法律の枠外による資金調達が増加すれば、投資家の安全が保護されないケースが出てくることに加え、マネーフローの把握が極めて難しくなったり、最終的には既存の金融機関の経営が脅かされるなど、多くの問題が発生するだろう。
日本は、仮想通貨についていち早く法整備を進めた国であり、ある意味では世界の先端を走っている。ICOについても、実質的には株式による資金調達に近いという考え方を共有し、会計、税務、法務においてどう位置付けるのが適切なのか、議論を進めていく必要がある。
重要なのは、健全な市場を育成することであり、新しい技術を抑制したり封印することではない。
(文=加谷珪一/経済評論家)