「総額表示」義務化、なぜわかりにくい表示が横行?某コンビニ「税抜き価格を表示すべき」
最近、お店で値札を見た際、困惑してしまうという人も多いのではないだろうか。「税抜き価格」と「税込み価格」が併記され、しかも概ね税抜き価格のほうが大きく表示されている。そのため、会計の際に支払ったお金が足りずに、慌てて不足分を支払うというケースが多発しているようである。
これまでは一般的に税抜き価格のみが表示されていたが、4月1日から「総額表示」が義務付けられた結果、消費者にとって極めてわかりにくい、2つの価格が表示される状況に陥ってしまっている。
国税庁のホームページを見ると、総額表示の義務付けとは、文字通り総額を表示しなければならないというだけのことであるとわかる。
具体的な表示例として、
11,000円
11,000円(税込)
11,000円(税抜価格10,000円)
11,000円(うち消費税額等1,000円)
11,000円(税抜価格10,000円、消費税額等1,000円)
と記載されており、これらはいずれもOKとのこと。
消費者にとって、もっともわかりやすい表示は「11,000円」、もう少し丁寧に説明するならば「11,000円(税込)」で十分であり、これら以上の情報は消費者の情報処理コストをいたずらに大きくするだけであり、煩わしく、さらには往々にして誤解を招くことは明白である。
なぜ、わかりにくい価格表示が横行しているのか
では、なぜわかりにくい税抜き価格と税込み価格が併記される状況が横行しているのか。しかも、概ね税抜き価格が大きく表示され、税込み価格は小さく表示されている。たとえば、ある大手コンビニでは税抜き価格が赤字で大きく表示されている一方、税込み価格は( )付けで小さく申し訳程度に添えられている。
筆者の知人が、こうしたわかりにくい価格表示について直接、大手コンビニに確認したところ、「お客様には税抜き本体価格をわかりやすく表示すべきとの考えから、現在の表示内容とさせていただいております」との回答を得ている。税抜き本体価格をわかりやすく表示する理由として、税込み価格は商品を複数購入した場合、1円未満の端数処理により、変動する可能性があるためとのこと。
ちなみに、国税庁のホームページには「1円未満の端数が生じるときには、その端数を四捨五入、切捨て又は切上げのいずれの方法により処理しても差し支えありません」と記されている。
しかしながら、わざわざ税込み価格をわかりにくく表示する必要はないのではないかと感じた知人は、さらに「税抜き価格と税込み価格の両方をわかりやすく表示するのでは、問題があるのでしょうか」と質問を重ねたが、「弊社では、“お客様には税抜き本体価格をわかりやすく表示すべき”との考えから、現在の表示内容とさせていただいております。以上が、お問合せへの弊社よりの回答でございます」とのことで終わってしまった。
マーケティングにおいては、顧客を満足させる4つのポイントとして、「商品」「流通経路」「販売促進」、そして今回の主題である「価格」の重要性が指摘されている。とりわけ、数字のみで簡単にコンペティタの店や商品と比較できる「価格」に、企業がとりわけセンシティブになる理由は理解できる。つまり、自らの店で客に理解しやすいように税込み価格を表示しても、コンペティタに税抜き価格を大きく表示されると客離れが起きると危惧しているのだろう。
以前、豆乳を製造しているメーカーにインタビューに伺った際に、「健康ブームを背景に消費者のためにトクホ(特定保健用食品)を取得し、その分、売価が10円高くなった。結果、売り上げは大きく低下した。価格の恐ろしさを痛感した」と聞いた話を思い起こさせる。
では、“わかりやすい価格表示”を実現するには、どうすればよいのだろうか。もちろん、政府が明確な指針を示すべきだが、そうならないのであれば、スーパーやコンビニなどが加盟するチェーンストア団体などが、顧客満足を第一に業界レベルで統一した基準を作成すべきではないだろうか。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)