4月19日に開かれた厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で、スマートフォンの決済アプリケーションに給与が直接入金される仕組みの創設に向け、制度設計案が議論された。
分科会では、厚労大臣が指定する資金移動業者の口座への資金移動が可能になる要件として、
・破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに保証する仕組みを有している
・毎月1回は手数料を負担することなく受取ができ、口座への資金移動が1円単位でできる
などが示された。
資金移動業者とは、PayPayや楽天ペイメント、KDDIなどを指す。各社ともキャッシュレス決済とリンクさせて、自前の経済圏構築に向かうだろうが、最有力事業者のPayPayは、今年10月から加盟店に対して手数料の有料化を実施する。
当初、利用料率は今年3月末に発表される予定だったが、8月31日に延期された。無料が有料に切り替わるうえに、利用料率の発表がわずか1カ月前であることに、加盟店の一部には戸惑いがあるという。
今年10月からの有料化は突然発表された措置ではなく、サービス開始時から発表されていた。その後も繰り返し告知され続けているので、加盟店は承知済みのはずだが、気になるのは利用料率の発表時期だ。なぜ1カ月前なのか。
ITジャーナリストの山口健太氏はこう推察する。
「PayPayは営業担当者が商店街のお店を一軒一軒訪ね歩くなど、足を使って全国に加盟店を広げてきました。そのため、コロナ禍でどれくらいの打撃を受けているか、よく把握しているはずです。直前までさまざまな選択肢を検討したいものと考えられます」
加盟店は大きくは減らない?
手数料無料を最大のウリにして伸び続けたPayPayの加盟店数は、昨年前半にコロナ禍で伸び悩んだが、後半に入って伸びが回復し、今年2月24日に300万カ所を突破[YK1] した。この間、ユーザーへの20%還元などの大盤振る舞いを続けてきたが、次のステップは収益化である。
有料化は当初予定通りのステップだが、10月からの有料化を前提に導入した店舗のなかには「キャッシュレス対応よりも無料に惹かれて加盟した」というケースも少なくないだろう。有料化とともに一定程度の脱退が出ることも想定できるが、山口氏は「手数料が有料化したからといって、加盟店が大きく減るとは考えにくい」と見通している。その理由として、以下の4つを挙げる。
(1)コロナ禍で現金を避ける傾向はますます強まっており、PayPayを入れるだけで売上が増えるとの認識も広がっていることは追い風になる。
(2)手数料無料に惹かれてPayPayを導入したお店でも、明らかに売上が増えるなどの効果があれば、手数料を払っても元が取れると、考えを改めた可能性もある。
(3)すでにクレジットカードや電子マネー、ほかのQRコード決済を導入している店の場合、あえてPayPayだけをやめる必要性はない。
(4)まだPayPayを導入していない店に対しては、たとえば新規導入から一定期間は手数料を無料とするなどのキャンペーンを打ち出すことも考えられる。
PayPayの今後については、加盟店数の推移もさることながら、LINE Payとの国内コード決済統合によって、キャッシュレス決済市場の勢力図がどう塗り替えられるかも焦点になるだろう。
キャッシュレス決済は、電子マネーやクレジットカードの牙城にスマホ決済が食い込み、急速な勢いで伸びている。目下、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天グループの携帯キャリア4社が経済圏争いを展開しているが、PayPayとLINE Payを傘下に持つソフトバンクが一気に勢力を拡大するのかどうか。
「4月下旬から一部のPayPay加盟店でLINE Payとの連携が始まりますが、2つのブランドを整理統合するまでには至っていません。たとえばジャパンネット銀行は『PayPay銀行』に改名しましたが、これとは別に『LINE Bank』も2022年度に設立予定となっています。統合のシナジーが形になって現れるには数年かかるとみられ、ほかの経済圏にとって対抗策を打ち出す時間は十分にありそうです」(山口氏)
奇しくも今年10月にはデジタル庁が発足する。PayPayの利用料有料化とともにキャッシュレス決済ビジネスは、新たなステージに入っていく。
(文=編集部)